「コスパ良しの韓国版「スピード」? やや難ありだが初監督作としては健闘」ハード・ヒット 発信制限 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
コスパ良しの韓国版「スピード」? やや難ありだが初監督作としては健闘
スペイン映画のリメイクだそう。車に爆弾を仕掛けドライバーと同乗者を人質にして身代金を要求するというプロットは「スピード」からアイデアを拝借したのだろうが、バスをSUVに、乗客十数人を家族3人にスケールダウンしたことで、こじんまりした印象は否めない。監督のキム・チャンジュは編集マンとして15年以上経験を積み、本作が初メガホン。トップスターも出演していないが、それでも韓国で初登場1位を飾ったというから、コスパはかなり良いと言えそうだ。
宣伝文句の“ノンストップ・アクション”は誇張しすぎ。本家の「スピード」は一定速度を下回ると爆発する設定のおかげでほぼほぼノンストップだったが、こちらの爆弾は重量に反応し座席から降りると爆発する仕掛けなので、別に車を止めても問題ないし、実際何度も停車する。だからずっと緊張感が持続するというほどではないが、大型車両ではなくSUVにしたぶん、急停止や急発進、駆動性を活かしたチェイスシーンなどで変化をつけて楽しませてくれる。
詰めが甘い部分もいくつか。近くに停まっていた同僚の車が爆破されて、後部座席に乗っていた主人公の息子の右太ももに破片が刺さり大けがをするのだけれど、息子から見て父の同僚の車は左前方、11時あたりの方向。直撃なら運転席にいる父の胴体を貫通してこなければならないし、そうでなければ車内でありえそうにない角度で跳ね返ったと考えるしかない。後部左側の窓ガラスを貫通して首に大けが、とでもしたほうが説得力があったのでは。
あと、ラストのふ頭から車ごと海にダイブするシーンも、本当なら時限装置より先に座面の過重が減って爆破してしまうのではなかろうか。まず海面に車の前部から突っ込んだ時、慣性により主人公と犯人の体重がかかる向きは前方に移動し、座面の荷重は一気に減るはず。また車が完全に水没した状態では、浮力によってやはり座面の荷重が大幅に減る。そのへんのご都合主義も気になった。
でもまあ、細かいことを気にしなければ、それなりにスリルのある場面や、父を思う娘の泣かせる行動など、いくつかの見所は悪くない。編集の巧さで観客の興味を持続させる点も大きいのだろう。