劇場公開日 2022年2月26日

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「この国の縮図」牛久 SSYMさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0この国の縮図

2022年2月27日
PCから投稿

昨年のウィシュマさん事件や、映画『東京クルド』で日本の入管への疑問、というかはっきりとした「腐敗」を感じ、以来入管についてはできる限り情報を集めようとしている。
この映画も公開前から気になっていて、公開初日の今日、早速観てきた。

入管内は撮影NG。刑務所でもないのに撮影ができない時点で後ろめたいものがあるのだろうと窺い知れる。入管もすっかり悪名が高くなった。
トーマス・アッシュ監督自ら施設の難民に面会し、隠しカメラよって撮影した。映画の内容はこの「盗撮」が大半を占める。
出演する難民たちは口々に牛久入管がいかに酷い場所であるかを語っていく。それはおそらく真実だろう。映像を観る限り、私にはそう思えた。

中盤のデニスへの「制圧」の動画が痛ましい。動画は数人(5、6人はいたか)でデニズを力づくで押さえつける場面から始まる。デニズは抵抗し、叫ぶ。職員たちは「抵抗するな」と言うが、はっきり言って無茶だ。数人が力づくで身体の自由を奪おうとしてきたら、抵抗するのが当たり前だろう。さらに職員たちはデニズを力で拘束するだけではなく、はっきりと「痛み」を与えて言うことをきかせようとしていた。顎や首のあたりに指をめりこませ、呼吸をできないようにしていた。
見ているだけで気分が悪くなった。とてもショッキングな映像だった。
デニズを「懲罰房」へ連行すると、デニズと一人の職員の口論がはじまる。デニズの部屋で、先にどっちが手を出したとか出さないとかそういう話なのだが、互いに相手を責めるばかりで平行線だ。職員のおっさんもだんだんキレていって怒鳴り散らしていた。おっさんがブチギレている間、周りの他の職員が黙ったまま俯いて気まずそうな様子だったのが滑稽だった。
どっちが先に手を出したのかは、証拠の動画がないので私にはわからない。だが最初の時点でカメラを回していない(記録を取っていない)のが、そもそも入管側の落ち度なのだ。その点をデニズは指摘するが、職員側はしらばっくれていた。卑怯だ。

一体何の権利があって、彼らは難民にこのような酷い仕打ちをするのだろう。収容施設は刑務所じゃない。難民は犯罪者じゃない(犯罪者であっても人権無視は言語道断だ)。
ムショより酷い場所、それが入管の収容施設だ。
刑務所には刑期がある。定められた日数が経過すれば、外に出られる。入管にはそれがない。
難民たちは、施設をいつ出られるのかわからない。これは、刑務所で過ごすより過酷ではないだろうか。常人ならば、確実に精神を病む。終わりの見えない地獄だ。

ここにきて、コロナが幸いした。施設内での「密」を避けるために、大量の仮放免が出た。だが、難民たちは不安を抱えたままだ。仮放免はいつ終わるとも知れず、明日いきなり施設に再収容される可能性もあるのだ。希望と絶望が入り混じり、施設を出た難民たちは精神が不安定になっていた。

トーマス・アッシュ監督は参議院議員の石川大我議員に接触し、牛久入管の現状を伝える。石川氏は入管の改善を進めようと努力をする。
石川氏は国会で当時の法務大臣の森まさこ氏に、入管についていくつか質問をする。この森まさこ法務大臣の答弁が酷い。まさに木で鼻をくくったような、通り一遍の回答しかしない。(自民党の伝家の宝刀・専門家と協議します、個別の案件にはお応えできません、だ)
さらに森まさこ大臣は予想外の質問にはしどろもどろになって、まともに答えることができていなかった。映画館の場内で失笑が漏れるほどの醜態であった。こういうのを見ると国会中継は普段から見ておくべきだと思う。ただ私は全く笑えなかった。この時点で私は怒り心頭で、笑う余裕はなかった。森まさこはポンコツだということはわかった。

去年から入管というものを考え続けてきて、入管内の様々な問題は入管単体の腐敗が原因ではないと感じている。日本政府、与党にも多大な責任はあるだろう。
映画内で、収容されている難民のニコラスが鋭いことを言う。税金を費やして難民を入管に収容し続けるよりも、難民を正規に認め、働いて納税してもらうほうが日本の財政にとっても有益だということだ。全くもってその通りというか、言わてみれば中学生でもわかるような話だ。だが、日本の政府はそれをしない。超少子高齢化、働き手不足がさけばれる日本で、労働者が増えることは望ましいことのはずだ。外国人が日本人の職を奪うというようなこともないだろう。
日本政府は中学生より馬鹿なのか。そんなことはないと思う。では、なぜニコラスの言ったような対応を日本政府は取らないのだろうか。ひとつに、日本を支配している層が保守的で、排外主義的だということがあるだろう。だが、それだけではないと思う。ここに、私は民主主義の限界のようなものを感じている。大多数の国民が政治に無関心であれば、その国は腐敗し続けるだけではないのか。
今日、映画館のある渋谷では、ロシアのウクライナ侵攻への反戦デモをやっていた。
ニコラスはなにが「おもてなしの国」だともぼやいていたが、まさにその通りだ。私は「日本人として云々」というようなアイデンティティはあまり持ち合わせてないが、それでも日本人として恥ずかしくなった。滝川クリステルはこの映画を観ろ。進次郎も。

公開初日で舞台挨拶があり、トーマス・アッシュ監督はじめ、映画の出演者たちも何人か見えていた。仮放免が現在も続いていることに、ひとまず安堵する。皆、服装がオシャレだった。デニズは明日(2/27)が誕生日らしい。

SSYM