「コロナ禍に疲れ塞いだ心にしみる、ささやかなときめきと安らぎ」ツユクサ 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
コロナ禍に疲れ塞いだ心にしみる、ささやかなときめきと安らぎ
平山秀幸監督と脚本家の安倍照雄が10年前から温めてきた企画だそう。当然、コロナ禍が長引く昨今の状況など予見できるはずもないが、現在大勢が抱いているであろう心労や閉塞感を、ファンタジックなときめきと安らぎで少しばかり軽くしてくれる、結果的にタイムリーな好企画となった。
小林聡美が演じる主人公・芙美が運転している車に隕石が衝突するという序盤のファンタジー(とはいえ1億分の1の確率で起きると劇中で説明される)はあるものの、それ以外は西伊豆の小さな港町を舞台に、平岩紙、江口のりこが演じる友人たちとの一見ありふれた、しかしそれぞれに感情の起伏を伴う日常が穏やかに流れる。そして、ツユクサの葉で草笛を吹くのが得意な男性・篠田(松重豊)と芙美の出会い。この二人の関係もほのぼのと進むが、一方でそれぞれが抱えた過去や葛藤があり、だからこそ応援したい気持ちが高まるのかもしれない。
めったにない隕石遭遇と、ありふれたツユクサという、好対照な二つの要素。これらが無理なく物語の中に同居している点も、本作の妙味だろう。
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