劇場公開日 2022年3月18日

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「犬目線で寡黙に語るドキュメンタリー」ストレイ 犬が見た世界 garuさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0犬目線で寡黙に語るドキュメンタリー

2022年5月6日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 犬を扱った映画は多いが、ここまで淡々と犬を取り巻く世界を犬目線で捉えようとした映画は珍しいのではないか。 犬の愛らしさを魅せつけるわけでもなく、かといって、犬が生きる世界の過酷さを深刻に語るわけでもない。 焦点を当てられる主役的な犬はいるものの、人為的な物語性は、ほとんど感じられない。  結局、野犬の日常を映しているだけなのだが、これがいろいろと感じさせてくれるのである。

 犬目線で、人間の営みも含めたこの世界を眺めていると、人間も犬も同じ動物であり、大して変わらないように見えてくる。 その一方で、なぜ犬たちは、犬よりも明らかに気まぐれで騒々しい人間という動物と、共生しているのだろうという思いもよぎる。 そしてまた、犬が思いの他無口で、静かで、平穏な生き物であることにも気づかされる。

 この作品の舞台であるトルコでは、犬の殺処分が法律で禁じられているとのことだ。 そのせいかどうか、登場する犬たちは、皆自由で幸せそうである。 人間とも付かず離れずの間合いで、とても平和な感じだ。 これが、犬と人間との関係を表す、一つの理想形のように見える。

 私が子供だった1970年代までは、イスタンブールと同じように、日本でもまだ野良犬がそこら中にいたのだ。 だが、あの当時と比べると、人間は前にも増して我がままになり、寂しくもなった。 犬への依存や甘えは、随分と酷くなっているのではないだろうか。 問題を投げかけてくる映画ではないのだが、そこだけは、どうしても考えてしまった。

 1時間半弱と、尺は短い。 考えさせてくれるというよりも、いろいろと感じさせてくれる、哲学的で良質な犬ドキュメンタリーである。

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Garu