「原作に負けず劣らない名画」生きる LIVING 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
原作に負けず劣らない名画
言わずと知れた黒澤明監督の不朽の名曲「生きる」のリメイクでした。ノーベル文学賞作家のカズオ・イシグロが脚本を担当するなど、とてつもなく豪華な看板を掲げた映画だけに、どんな内容なのか興味津々でしたが、その大看板に負けない素晴らしい作品でした。
舞台は日本からイギリスに移していますが、時代設定は1952年から53年頃と同時代で、主人公も市役所の市民課長。ガンを宣告されて余命6カ月と言われてしまい、一時絶望で落ち込んでしまうものの、思い直して長らく懸案となっていた貧民街の公園建設を進める展開も一緒。役所の中では、「遅れず 休まず 働かず」と揶揄されることがある公務員の姿が、皮肉を込めて描かれているのも同じ。両国とも、そうした部分では共通点があって、思わず笑ってしまいました。
異なるところと言えば、まずはモノクロとカラーの相違。ただカラーで創られたとはいえ、本作の映像の質感は非常に抑制的で、70年前の時代を表すのに十分効果的だったと同時に、原作の空気感をも巧みに取り入れていたように思えました。
また、黒澤明の原作は143分だったのに対して、本作は103分と40分も短いことも大きな相違点でした。とはいえ内容的には原作の流れをほぼ忠実になぞっており、物足りなさは全くありませんでした。強いて挙げれば原作では主人公の葬儀で繰り広げられた同僚たちの主人公の評価に関する論争が、原作は結構長かったのに対して、本作は(通勤電車のコンパートメントの中に舞台を移して)コンパクトにまとめられていたところも異なる点でした。この点については、本作の方が原作よりも濃密で、原作を凌駕していたんじゃないかとすら思えました。
あと、原作の名を高からしめるのに大いに貢献した「ゴンドラの唄」が、本作ではスコットランド民謡の「The Rowan Tree(ナナカマドの木の唄)」に置き換えられていました。主人公のルーツがスコットランドにあるという設定でこの選曲となっていましたが、歌詞の内容は全く異なるものの、そのテンポとか暖かいメロディは共通しており、主人公が自分が建設に携わった公園のブランコに揺られながら唄うシーンは、原作も本作も神々しいばかりでした。
そんな訳で、原作の良さを損なうことなく、それでいてコピペではないオリジナリティを加えた本作は、原作同様間違いなく名画と言えるものだったと思います。