すずめの戸締まりのレビュー・感想・評価
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全体的に良き。気になるところもちらほら
全体的に良かった。
私は新海誠監督の映画はストーリーというより風景画、とくに親しみ慣れた東京の描写がとても好きなので、今作でも東京が舞台になるパートがあったので嬉しかったです。
後ろ戸が開くとミミズがでてきて、ミミズが倒れると地震が起こる。設定は意外とシンプルですんなり落ちたので、わりと最初から引き込まれていたものの、私は環さんと同じ世代のせいか鈴芽の環さんに対する態度がどうにも許せず、ほとんど最後の方までイラッとしてしまった…信じてもらえなくてもいいから説明くらいしなさい。ところどころで話そうともせず「うまく言えない」で済ませるのは、良くないぞと。
鈴芽役が原菜乃華さん、草太役が松村北斗さんな以外には何も情報を入れていかなかったので、エンドロールで深津絵里さんや染谷将太さん、神木隆之介さんの名前が出てきて驚きました。
みなさんお上手ですね。
(天気の子の小栗さんや本田さんはこれでもかってくらいご本人感がすごかったので…)
個人的に原さんご本人は以前ドラマでもお見かけしておりとても可愛くて良いのですが、声が可愛すぎて鈴芽のビジュアルとは少し違和感があるように思いました。
また、新海誠さんの映画全てで感じることですが、恋愛感情になるまでの描写があまり細かくないなと。
これまでの作品でも、願えば空が晴れる圧倒的な能力や入れ替わりを共有している関係といったあまり本人の人柄とは関連しないところだけで、突然命張ってお守りしますみたいになるのがイマイチ納得いかなかったのですが、今作でも美しい姿で扉を閉じるという能力を持つ謎の青年である以外にはあまり鈴芽が草太をたった数日で「好きな人」と言い切るにはあまりにもエピソードが足りないかなと言う感じはしました。
でもまたいつか配信されたら、もう一度観たいなと思うくらいには面白かったです。
良い休日になりました。
閉じ師とは?
長編アニメーションの人間描写は如何に
最近の長編アニメの拙い人間描写を気にしつつ視聴しました。
冒頭は懸念通りストーリー主導の可笑しな言動が目立ちます。
また、出会って3秒で恋に落ち最後まで周りが見えない主人公。ここは潔く終始ブレません。
北上の道のり、世代の違う人間と思春期の若者の触れ合いをじっくりと描いています。
コミカルではありますが、真っ当な描写でした。
東京編は謎解きパートと宮城へ向かう動機づけです。
そして所謂ロードムービー、母親代わりの女性と娘の喧嘩は致命的です。
口を滑らせた、人間の感情は複雑、どうでしょうか。
私は血の繋がりに関わらず、子供への愛情を持った事のある人間の口から出る言葉ではないと感じます。
それは、人生経験の少なさや人間観察の欠如から来る致命的なリアリティの無さ、
建築家で言う空間把握能力や絵描きで言うデッサン力の欠如です。
作家の伝えたい事とやりたい事が先行しています。
これ以降物語はクライマックスへ、
震災の悲しみを代弁する主人公が自身と向き合い前に進みます。
当時多くの作家が葛藤したテーマに、
10年以上経った今向き合った作品、
まさに当時幼かった子供が大人に差し掛かっています。
それが白けるか背中を押すかわかりませんが、監督なりの総括と一人の大人として送りたかったメッセージだと私は前向きに受けとりました。
でかいミミズをやっつける震災ロードムービー
幼い頃親を亡くし九州の叔母さんちに住んでいるすずめ。登校中にイケメンから声をかけられて気になっていたら、山の中の廃墟から煙が上がる。あれ?友達には見えていない??それから始まる、すずめと草太の戸締まり旅。てか草太、椅子になっちゃうけどね。ずっと嘘つきっぽいなと思っていたダイジン、まさかね。
九州から愛媛、神戸、東京、最後はずずめの生まれ故郷の仙台へ。あれ?北海道へは行かないの〜??なぜミミズは出現するのか、なぜ要師は1人しかいないのか、なぜすずめは幼い頃扉の中に入れたのか、などなど、疑問はほぼ回収してもらえなかったのが残念でした。何より、ずっとバタバタ感が強く単調だったのと、皆んなを救う為じゃなく、草太の為に頑張ってる感が強かったので、自分には共感度がゼロ。期待度が高かった分、少し残念でした。
昔の人と人の繋がり、優しさを感じられた映画!ただ・・・
面白かったけど、地震経験者にはちょっとツラいかも・・
東日本大震災をメインでしたが、阪神大震災、古くは関東大震災と各地の震災をめぐる感じだった!
阪神大震災を経験した身としては、少し辛かった!
ダイジンの「いっぱい人が死ぬよ」のセリフにもあの時を思い出し、恐怖を感じた最後の街の炎は、阪神大震災そのもの・・
君の名や、天気の子のように、少し非現実的な物語の方が好き!
そもそも、すずめが扉さえ開けなければ、こんなことになってなかったのに・・
物語の人と人の繋がり、優しさは感じられたのは、よかった!
ただ、今の世の中、家出の女子高生を泊めただけで、犯罪者扱いされるんだろうな〜
震災を題材にした、勇気は認めるがやっぱり、架空の災害でも良かったのでは!別に実際にあった震災で描く必要はなかったように思う。新海誠の最高傑作と言われているが、私は君の名はの方がだいぶ好きです。
てっぺんを獲りに来た。
冒頭から「千と千尋の神隠し」「崖の上のポニョ」、
ソウタはハウルかな?ルパンぽい音楽に荒井由美。
言葉を選ばずに言うと
ジブリへのリスペクトと介錯をした作品で、
アニメ映画業界のてっぺんを
いよいよ獲りに来た意欲作と言う風に感じました。
成人男性を相手に選んだのもアニメ映画では
珍しいのかなと思いましたし、
ソウタも芹沢もとてと魅力的でした。
またまた壮大なテーマと、大災害をモチーフに
展開力もあったし、ロードムービーとしての
色彩鮮やかな絵力も素晴らしかった。
場所場所で会うキャラも魅力的で、
コロナで閉鎖的な世の中に繋がりと言う温かさを
見せてくれました。
ただ周りの大絶賛に対して自分としては
物足りない部分も感じていて、
まぁそれは読解力不足の自分のせい
と言うのもあるかもしれないけど、
どう言う事?と言う引っかかりもありました。
(天気の子ほどの、そんな災害みんなスルーするわけ
ないだろ!みたいな大きなツッコミはなかったけど)
しかし、やはり映画で観るのは楽しい!
大きい画面でキャラが動き回ると言うのは
ワクワクするし元気が出ました。
この作品を観たジブリ、
そして成人男性も魅力的と言う新たな武器を手にした
新海監督の次回作に今からもうワクワクしております。
災除去の旅立ちとその土地の方々との出会い、主人公すずめの母の死の葛藤
主人公スズメはある日、大学生ソウタとの出会いをきっかけに震災の元凶であるミミズを扉を閉めて封じるため、九州から東京にかけて旅をしていく。自分が目覚めさせてしまった災封印像が猫に姿を変え、各地の災いをおこすこととソウタが椅子にされ戻してもらうことがこの旅の本筋だが、行ったその土地の方々とのふれあいによって、スズメは支えられ東京まで行くことができる。
見どころはまさに背景絵と物語のスピード。新海監督作品はどれも風景、景色が繊細でおそらくアニメの中でもこの分野は上位。物語も過去作のように地方・田舎から都心へ移動していき、わりと早く物語は進んで行く。途中笑かしポイントもあり初見では面白いです。
ただ私個人的に思うところは、正直この物語の各設定の理解がよくわからなかったです。スズメは前に扉を開けていて高校生までミミズを見ずに過ごしていたり、いきなり椅子に変えられてるので急にレベル高い非現実が発動したりと若干そこに違和感に近い感覚がありました。声の演出は特に問題は見受けられませんでした
戸締まりが意味するもの。
気になるところは多々あれど、いざ始まってみれば、新海監督の力技の怒涛の展開で、あっと言う間でした。内容的には、従来のディザスターものなんだけど、災厄を封印しているどこでもドアを戸締まりしていきながら、主人公のつらい過去に遡っていくロードムービー的構成がうまくできていて楽しかったです。一方で、閉め師や要石の仕組みをセリフではなく、映像で説明してほしかったです。何度も出てくる、玄関の鍵を締め自転車の鍵を解除するシーンは、つらい過去に向き合いながらも前向きに進んでいく主人公の成長を意味しているように感じました。
最近の作品の中では一番小さいかな
万人受け、ただし東北の方除く
新海誠の最新作ということで怖いもの見たさで鑑賞。毎回作品が出るたびに今回はいいのか?悪いのか?ってドキドキさせられる稀有な監督ですよね。
内容は、ロードムービー+伝記という感じで、旅路で各地の描写がさらっとされていて、旅行したときに感じた「あるある」が詰め込まれて物語に自然と引き込まれました。うん、結末含め良かったと思います。現在の東京以外の地方で起きていることの描写がそのまま物語のキーになっている点もいい。100点ではなく75点を狙いに行って成功した映画かと。
一点懸念点があるなら、東日本大震災の表現が出てて、そこに触れてしまったのか〜というところが評価別れてしまうかもと鑑賞しながら勝手に不安になってしまいました。私は当事東北にいなかったので冷静に見れましたが現地の当事者の方がこの映画を見たときどういうふうに感じるんだろう?自分たちの痛みをこんなふうに扱うのかって怒らないのか?そこだけが不安です。
すずめに共感できない+無能ロン毛
すずめがロン毛にあれだけ執着する理由が弱い。過去にあったことがある気がする+イケメンというだけ
ブサイクでは成立しない物語
猫の行動原理もよく分からない。なぜ他人を要石にしたの?人がいっぱい死ぬよじゃねぇよ。左大臣はもっとよく分からん。あいつ何で封印解放されて付いてきてんの?
ロン毛もなんで単独行動してんの?絶対他の人と一緒に回った方が効率いいだろ。閉じ師たちって言ったんだから他にもいるだろ。
面白かった! ダイナミックでスペクタクルな映像でおくる、ロードムービーの傑作!!
主人公の鈴芽が自らの力で忘却の記憶を取り戻し、自らの力で絶望の淵に立つ幼少期の自分を救う、希望に満ち溢れた物語
ストーリーの根幹には東日本大震災をはじめ、数々の天災によって痛めつけられた人々の故郷への"悼み"が横たわり、深みを持たせ見応えがありました
重いテーマを明るくテンポよく、声優の皆さんの好演で力強く描ききっており、見終わった後味がすごくいい良作でした
古の時代から大地震の元凶を起こす"ミミズ"、そのミミズがこの世に出てくる死者の国とを繋ぐ"うしろ戸"を閉め鍵をかける"閉じ師"、鈴芽と閉じ師の草太が日本に点在する後ろ戸を閉めるために列島横断するロードムービー調のストーリー展開がワクワクしてとても楽しかったです
そしてこれまでの新海誠 監督作品同様、映像はとても綺麗、さらに本作ではエヴァンゲリヲンの使徒の様に大空に伸び暴れまくる巨大なミミズ、それに立ち向かう鈴芽と草太、それら一連のダイナミックなスペクタクル映像は圧巻です
鈴芽が草太にすれ違いざまにイケメンだなあと思っただけで、命懸けで心寄せていくところや、だいじんとさだいじんって結局何だったの? なぜだいじんは草太をイスにした? さだいじんはどうやって守っていた場所から離れられたの? 巨大化していけたのはなぜ?
といった突っ込みどこや消化不良なところはありますが、総じてとても楽しめました
ふと疑問に思ったこと
スナックでダイジンがあらわれたとき
ダイジンは他のひとには見えなかったの?
それとも人の姿になってたの?
どっちにしろなんで?🐈🤔
めちゃくちゃ寝不足で観たんですが
眠気ぶっ飛びました笑
つまらなかったら爆睡してたと思います😹
普通です
新海監督渾身の傑作
東日本大震災をテーマに扱った映画ですが、全体的に優しさに溢れた映画でした。
エンターテイメントとしては楽曲を使用し疾走感を生み出した前2作とは違うアプローチになっていて
テーマの重さを和らげる為かファンタジー色の強い作品になっており、大分受ける印象の違う作品となりました。
ボーイミーツガールという観点から前2作と同じじゃないか?という指摘が良くありましたが、ハッキリって全く別物であり、新海誠監督がアニメ監督としての進化と深化を見せた作品になったと思います。
東京の人
たぶん監督など誰かも知らず全く情報無しで観たとしたら、「なかなか良い作品やん!」となったでしょう。でも新海誠作品と知ってて観たものだからハードルあげてしまいました。
作画、動画は文句無し良かったです。毎回思うのがこの監督の東京の描きは絶妙だとおもいます。しかし他の街の描きはそこまで力がないように感じます。
何ていうか「東京の人」だよね。
すずめ役の声優さんもピッタシ!神戸のママ役もいい感じでした。
んーなんだろ?
物足りなさを感じます。
テンポ感がいまいちだったかなぁ?ストーリーが無理矢理すぎかなぁ?
そんなにずば抜けた作品ではないと感じます。
史実の災害をトレースするのならもうちょっと良いアイディアが無かったものか?
そもそも東日本大震災は海底が震源ですよ。なんで地上に扉があんのよ?
君の名は、天気の子、は観終わったあと色々と考察したくなって場面やセリフを思いかえしたり、もう一度見たくなったりしたものですが、本作品はそういう欲求がしないですね。もう一回観たいとまでは思えない。
駄作ではないけど傑作でもないと思います。
ただよう『AIR』臭はご愛敬。新海誠が三度臨んだ『自然災害エンタメ』決定版! 「人間椅子」もあるでよ!
海辺の街にやってくる草太見て、「国崎かよっ!!」って思ったけど(笑)。
椅子になってひょこひょこ動く草太見て、「国崎かよっ!!」って思ったけど(笑)。
エンタメとしては今年、最強の一本!!
文句なしに面白かった。
アクションとしては、宮崎駿系の空中バトル方面において、圧倒的な仕上がり。
恋愛ものとしては、若干薄味で予定調和ではあるが、勘所を押さえた必要十分の出来。
なにより、頑張る女の子というのは、いつの世にも尊い。
ただ、尊い。とにかく、尊い。
新海誠というのは、意外と珍しい監督だと思う。
だいたい、エンタメ作でメガヒットを飛ばしたアニメ監督というのは、宮崎駿にしても、細田守にしても、原恵一にしても、作るたびに世に問う次回作が「小難しく」「個人的な」作品になっていくのが普通で、だんだんとエンタメとしてはバランスを逸して「癖の強い」作品になっていくものだ(それは、たとえば黒澤明だってそうだ)。
ところが、この人の場合は違う。
『君の名は。』でメガヒットを飛ばして以降、むしろ明らかにエンタメ度をあげてきているし、作品としてのバランスも良くなってきている。「粗がとれて」「相対的な完成度が上がって」「より無心に楽しめる」作りになっている。いや、それを目指して努力して、そう仕上げてきている。
いわば、巨匠性や作家性を前面に出すより、エンタメ性と職人性を磨いて、「期待してくれる観客」に「ただひたすら尽くす」姿勢を敢えて固持しているのだ。
しかも、たいていの監督の場合、ヒット作のあとは、作る映画のジャンルやらノリやらを変えていくのが普通ではないか。
作家として、同じものの焼き直しを作っていると思われるのが耐えられないから。
ところが、新海誠は、『君の名は。』までは、散々いろいろなパターンのアニメ表現を試していたのに、『君の名は。』で大当たりしてからは、二作続けて、敢えて「似たり寄ったり」の作品を送り出してみせた。
ひとりの純真な少女が、まわりのサポートを得ながらも、自らに備わった独自の力で、大規模自然災害の発生に使命感をもって立ち向かう物語。
一度は起きてしまった大災害を知る少女が、二度目のカタストロフィを何とか食い止めて奇跡を起こすことで、自らの心の傷をも乗り越える物語。
同じ苦難に立ち向かってきた男の子と心を通じ合わせることで、会えない距離に隔てられていたはずの関係性を取り戻し、無事再会を果たす話。
基本は、三作とも同じだ。
新海誠という人は、おそらく彼独自の作家性は様々な形で保持しつつも、自分の評判以上に、関わってくれる大量のスタッフやビッグバジェットを用意してくれた映画会社を「裏切らない」ことを第一義に考えて、映画製作を行っているのではないか。
だから彼は、個性を強めるよりも、完成度を高める。
一度当たった「型」は、外すまでは敢えて踏襲する。
エンタメであることを、恐れない。
そういう、より安全で、ウィンウィンで、誰もがハッピーになれる「必勝の方程式」を模索し、目指している。
エンタメとは本来そういうものだろうと言われそうだが、最初に言ったとおり、それを実現できている監督は、ほとんどいない。
でも、新海誠はそれをやっている。
何千人の「この映画に賭けている」関係者たちを食わしていくために、新海は全力全霊で「日本人の危機意識を高め」「同時に日本人のトラウマを癒す」「少女の頑張りに世界の命運のかかった王道のセカイ系映画」を撮り続ける。
僕は、そういう新海誠のあり方を、全面的に支持したいと思う。
『天気の子』は、面白くはあったが、正直バランスの悪い映画だった。
エンタメとしては『君の名は。』より派手で大掛かりになっていたが、町のお祭りや学校行事のために「お天気」乞いをする「軽さ」と、そのために人身御供にならざるを得ないセカイ系の「重さ」のつり合いが完全に破綻していた。「なぜ彼女が巫女なのか?」という「選ばれる理由」の部分でも、適当な神社の言い伝えを引っ張ってきただけで、説得力はほぼ皆無だった。
その点、今回の「すずめの戸締まり」は、全体の世界観の設定に大きな破綻がない。
逆にいえば「よくある」「龍脈と封印の巫女」みたいなお話に立ち帰ったような感じで、多少陳腐な物語設定に堕しているともいえるのかもしれないが、設定に得心が行かないせいで話に集中できないよりは100倍ましだ。
むしろ、
異世界に通じる「扉」と、
それを封印する「鍵」と、
防犯を象徴する「戸締まり」の三題噺として、
この「閉じ師」と「要石」によって「地震」を収めて回るという「天岩戸」の設定を編み出したのだとしたら、それは本当に素晴らしい構成力だと思う。
新海がどうしてもやりたい「日本独自の自然災害への恐怖とトラウマに立ち向かうセカイ系」というテーマに、「少女」が関わってくる理由として、風来坊との恋愛要素を絡めてきたのは大正解だ。
こうして新海誠は、敢えて自分を殺してエンタメに徹している。
一方で、彼はエンタメに徹しながらも、同時に、自らの作家性を存分に発揮している。
だからこそ観客は、新海の「本気」を受け取り、「本気」で愉しんでくれるわけだ。
実際、新海は、やりたいテーマや、描きたい少女像や、本人の性癖に関しては、驚くほど素直に、欲望に忠実に、やりたいようにやってきたし、本作でもやっている。
じつは本作の予告編を最初に観たときに思ったのは、こいつ、何事もないかのように、自分の出自であるエロゲのノリに回帰してやがるな(笑)、ということだった。
この感想の冒頭で述べたとおり、「海辺の街」で「少女」が「年上の」「背の高い」「旅の青年」と出逢うというオープニングは、強くKeyの美少女ゲーム『AIR』のヒロイン神尾観鈴とヒーロー国崎往人の出逢いを想起させるものだ。
鈴芽は観鈴のように病弱でもなければ、重い前世を背負っているわけでもないが、「叔母と二人で」「母子家庭」に近い家庭環境で生きているという設定が完全に被っていることを考えると、新海が『AIR』を意識せずに本作を作ったとは、僕にはとても思えない。
何より、草太が三本脚の「椅子」になって、ひょこひょこ動くという設定が、国崎が法術で動かす人形と、「二巡目のカラス」(詳細は伏す)を思い出させずにはいられない。
草太が「閉じ師」で、ヒロインがそれを助けるという設定も、同じKeyの『Kanon』における川澄舞シナリオの裏返しとも言える。
猫の「ダイジン」も、しゃべったり、巨大化したり、なんか既視感があるなあと思ったら、CIRCUSの『水夏』にでてくる「アルキメデス」および、ほぼ同キャラである『D.C. 〜ダ・カーポ〜』のうたまるだった(笑)。
一方、筋金入りの宮崎駿フォロワーとしての新海誠の部分も隠すことなくむき出しになっていて、重力に抗って展開される空中アクションが、前作から比べても大幅に増量されている。
超巨大ミミズ(地表からの角度で危険度がわかるの秀逸なアイディア!)や、それに立ち向かう巨大獣は、『もののけ姫』のダイダラボッチや「主」のようだし、「ダイジン」の向けてくる純粋無垢な好意と、それと裏腹の善悪を越えた「災害とつながる半神」のイメージは、まるで『崖の上のポニョ』のようだ。
新海誠特有の「性癖」も、しっかり作品に反映されている。
まずは、いたいけな少女と年上のお姉さんの両方に「萌えられる」(=性的に興奮できる)彼の両刀ぶり(だから、『ほしのこえ』や『君の名は。』ではヒロインが先に「齢を取る」)は、鈴芽と叔母の環に振り分けられて充足される。
それから、毎回どの映画でも登場する「濡れたヒロイン」というフェティシズムも、何度も、何度も、充足される(鈴芽も、環も、きちんとびしょ濡れになる)。とくに鈴芽にはお風呂シーンがあるし、着替えシーンもある。
ただし、『君の名は。』で口噛み酒をぶっこんできたり、『天気の子』で敢えてラブホお泊りシーンを挿入して、一部の女性層の強い反発を招いた反省もあってか、いずれの「性癖充足」も、できるだけ毒気の少ない表現に抑えられているのがミソだ。
それでも、ちょっとしたスカートのまとわりつき方とか、ちょっとした足のケガのさせ方とかに新海誠のこだわりはしっかり刻印されている。
ついでにいうと、この映画の最大の見どころは、椅子になった草太が、鈴芽に「座ってもらったり」、鈴芽に「足で踏んでもらったり」する、ご褒美シーンの神々しさにこそある、と僕は同好の士として強く信じている。
そう、新海誠は、真の変態であることを辞めたわけではない。
ただ、その表現の仕方が、じつに洗練されてきているのだ!!
やっていることは、そのまんま江戸川乱歩の『人間椅子』なのだが(笑)、本当に椅子にメタモルフォーゼしているという「無機物化」の魔法を用いることによって、たくみに「性的な気持ち悪さ」から行為の生々しさを遠ざけ、子供でも見られるノリに無毒化している。
このあたり、過去作で叩かれた新海の、渾身の創意工夫とリベンジ魂が垣間見えるとでもいおうか。
鈴芽サイドも、「生々しさ」はきわめて巧妙に回避している。
キスは、椅子にするだけ。
かわりに、彼の「靴」を履き、傷ついた足を守って最終決戦の場に赴く。
そして最後は、ご褒美に彼の上っ張りをかけてもらう。
おお、なんて奥ゆかしいフェティシズム! ビバ新海!
彼にとって、多くの観客が求めるものを作り出すことと、作家性は共存可能なものだ。
誰もが喜んでくれる圧巻のエンターテインメントに仕上げながらも、
自らの設定した問題意識(自然災害と日本)と正面から向き合い、
デビュー以来不変のテーマ(男女の距離から生じるディスコミュニケーション)をも追求し、
同時に自らの性癖にも噓をつかない(少女が好き、お姉さんが好き、濡れてるのが好き)。
僕はそういう新海誠が偉いと思うし、今回の『すずめの戸締まり』は、三回試してきた路線のなかでは、いちばんの王道で、いちばんの仕上がりだと感じている。
今回新たに加わった要素として一番目新しいのは、「ロードムーヴィー」としての旅の描写がある点だと思うが、これとて、単なる新奇な趣向として導入されたわけではない。
『君の名は。』で、日本の田舎の美しさ、『天気の子』で日本の都市の美しさを描いてみせた新海は、本作でその両者を「取り合わせる」ために、「海」と「山」と「都市」を、「旅」という動線で結んでみせたのだ。
あるいは、局所災害がテーマだったこれまでの映画を、九州と四国と神戸と東京と東北を旅で結ぶことによって、「日本全体の災害」がテーマの映画へとふくらませてみせたともいえる。
さらにいえば、新海誠は稀代の「廃墟」マニアだが、前作、前前作の廃墟は「災害」と直接結びついた「滅び」と「蹂躙」の象徴でもあった。
今回の映画では、廃墟は廃墟として――時代に遺棄されたトポスとして、より美しく立ち上がっている。そこには、賑やかだったころの幸福な人々の記憶がしみついている。だからこそ、災害が立ち現れる「ゲート」にもなりうるのだ。
「廃墟と水」という取り合わせは、当然ながら宮崎駿を想起させるものでもあるが、今回はそれ以上にタルコフスキー的な詩情を漂わせていると僕は思う。
タルコフスキーもまた、廃墟と、水と、記憶について、常に思索しつづけた監督だった。
新海誠は、今回の映画でその領域に一歩近づいたのかもしれない。
声優陣は、プロはザーさん一人であるにもかかわらず、ほぼ完ぺきな演技ぶり。
とくに深津絵里は、やっているあいだじゅうずいぶんと悩んだと何かの記事で言っていたが、これ以上ないくらい素晴らしい演技だったと思う。
あと、神木きゅんが、TVアニメなら100%櫻井孝宏がやりそうな役を、櫻井くんみたいな声でやっていて、たいへん感心した。芸域広いよ(高笑いは下手だったけど)。
さりげに草原のシロツメクサやアカツメクサ、ブタナ、モンキチョウ、海岸のセグロカモメ、カラスのまばたきなど、自然描写に一切噓がないのにも驚いた。ほんと丹治匠の仕事なくして、新海なしだね。
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