「新海誠監督だからこそ許される作品」すずめの戸締まり Riiiさんの映画レビュー(感想・評価)
新海誠監督だからこそ許される作品
IMAXで鑑賞。
※視聴済み新海作品は末尾参照。
見事の一言。代表作『君の名は。』に並び得る作品と言えるだろう。
以下、これまでの新海作品とも比較しながら
、この作品の評価すべき点を3点、残念だった点を1点上げて述べていく。
まずこの作品で評価すべき点は、新しくファンタジー要素の強い作画を取り入れた点だ。
新海作品の作画の特徴は、現実と見間違える程の圧倒的な背景描写とそれを活かした心理描写にあり、特に『言の葉の庭』以降の作品ででその傾向は顕著だった。
しかし、本作ではリアル志向よりもファンタジー色の強い作画にすることで作品への没入感が強まり、また、終盤のここぞという場面で圧倒的画力を解放することで、作品内でのメリハリを生むことにも成功した。
次回作以降の制作の幅も広がることだろう。
次に評価すべき点は、東日本大震災の要素を真正面から描いた点だ。
これは『君の名は。』で日本を代表するアニメーターの地位を確立した新海誠監督でなければ、なし得なかったことと言える。
半端な監督が手掛けたならば炎上は避けられなかったはずで、芸術作品としてのタブーを打ち破るその挑戦の姿勢を大いに評価したい。
最後に評価したい点は、鑑賞後にも楽しみを増やす要素を与えてくれた点だ。
聖地となる可能性のある場所が宮崎、愛媛、神戸、東京、福島と少なくとも5か所以上ある。
「地方の人は聖地巡礼が大変だろうから日本全国に配置したろ♪」の精神は素直にありがたい。
また、中盤の怒涛の懐メロ挿入も面白い要素だった。新海作品というネームバリューと大企業のバックアップがなければ、著作権的にも実現できなかっただろう。中盤の中だるみを防ぐという観点でも大いに貢献していた。
一方で残念と感じた点は、登場人物の関係性の深まりに納得感を得られなかった点だ。
果たして「草太さんの居ない世界なんて~」と鈴芽が言えるほど、鈴芽と草太の関係は深まっていただろうか?
テンポを重視したと理解はできるし、『君の名は。』と比較すればまだマシとも言える。この点は次回作以降に改善を期待したい。
以上が本作品の感想だが、本作品によって、新海誠監督はまた一段階レベルが上がったのではないかと感じている。
自分の描きたいことに全振りした『秒速5センチメートル』、
世間のニーズに全振りした『君の名は。』、
世間のニーズを捉えつつ自分の描きたいことを多いに盛り込み視聴者を少々困惑させた『天気の子』...
新海誠監督はこれらの作品を経て、本作品でようやく世間のニーズと自分の描きたいこととの融合に成功したのではないだろうか。
次回作も期待したい。
◎参考:視聴済の新海作品
『雲のむこう、約束の場所』
『秒速5センチメートル』
『言の葉の庭』
『君の名は。』
『天気の子』
p.s. 観たかったよね、富士山...