「日本ジュブナイル映画の新たな傑作」サバカン SABAKAN といぼ:レビューが長い人さんの映画レビュー(感想・評価)
日本ジュブナイル映画の新たな傑作
本作をジャンル分けするならば、幼少の思い出を振り返るような映画である「ジュブナイル映画」というのが一番ピッタリハマるかと思います。
このジャンルで一番有名なのは『スタンド・バイ・ミー』(1987)という古いアメリカ映画だと思いますが、今年の2月に『グッバイ、ドン・グリーズ』というジュブナイル系アニメ邦画も公開されていますので、今なお人気の高い映画ジャンルですね。
本作はそんな人気ジャンルであるジュブナイル作品の中でも、非常にクオリティの高い一作になっているように感じました。少年時代の一夏の思い出、子供たちだけの冒険、淡い恋心。ジュブナイル作品としての勘所をしっかりと押さえつつ、今までにない新しい作品に仕上がっていたように感じます。何ヵ所か思わず涙ぐんでしまう感動的なシーンもありました。
ただ、2点ほど不満点もあります。
1つ目は、草なぎさんの出演時間が非常に短かったこと。2つ目は、劇中何度も登場する下品で幼稚な下ネタの数々です。特に下ネタに関しては不快に感じるレベルで酷かったので、下ネタ苦手な人は要注意だと思います。
まぁ、以上のような不満点はありつつも、全体的に見ればクオリティが高く、非常に感動できる傑作ジュブナイル作品となっていましたので、観ていない方にはぜひご覧いただきたいですね。
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1986年の長崎、喧嘩は多いが仲の良い家族で育った久田孝明(番家一路/草なぎ剛)と、彼のクラスメイトで貧乏故にクラスに馴染めず孤立していた竹本健次(原田琥之佑)。ある日、竹本が突然久田の家を訪ね、イルカを見るために一緒に出掛けようと誘う。何故自分が誘われたのか、理由も分からない久田であったが、彼の誘いに乗り、家族に内緒で海までの冒険に出発する。
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私個人の話になりますが、私は東北の田舎で育ちました。なので、本作のような田舎での少年たちの物語には結構共感して感動しちゃうタイプです。本作はジュブナイルものとしてはここ数年で観た作品の中では一番面白かったように感じます。
本作のようなジュブナイル作品を語る際に、しばしば比較対象として名前が挙がる作品と言えば、スティーブンキング原作の名作『スタンド・バイ・ミー』(1986)です。アメリカを舞台に、仲良し少年4人の小さな大冒険を描いた名作として今なお語り継がれています。ただ、映画として面白いことは認めつつ、『スタンド・バイ・ミー』は現代日本では共感できないジュブナイル作品であるとも感じました。
『スタンド・バイ・ミー』、小説の原題は『The Body(死体)』であり、少年たちが仲間内で人気者になるために線路沿いに歩いて死体を探しに行くという物語です。「死体を探してヒーローになる」という動機は正直現代日本では共感できない人も多いと思いますし、私個人としてもそこが引っ掛かってしまいイマイチ映画にノレませんでした。
しかし『サバカン』において、少年たちの行動原理となっている「イルカを見たい」と言う願望は、現代日本でも理解できる理由です。映画ジャンルが似ていることもあり『スタンド・バイ・ミー』との共通点は当然多くありますが、どれも日本的なアップデートがしっかりされていてことで、鑑賞のノイズになるような違和感はなかったように感じます。
ところどころのコメディシーンも非常に面白かったと思います。私はコメディの好き嫌いが激しいんですが、本作のコメディシーンは笑えました。笑いを誘うコメディシーンが何ヵ所かあったんですが、劇場内でも笑いが起こっていて、私も思わずクスクスと笑ってしまいました。
全体的には楽しめたんですが、先述の通り不満点もあります。
1つ目は非常に楽しみにしていたのに草なぎさんの出演時間が非常に短かったことです。上映時間の9割が幼少時代の回想シーンだったので、草なぎさんのトータルの出演時間は5分あるかないでした。、『ミッドナイトスワン』を観て以来すっかり草なぎ剛のファンになっていた私は、草なぎさんがメインキャストだと信じて期待していたので、ちょっと肩透かしを食らった気分です。
2つ目は、劇中何度も登場する、下品で幼稚な下ネタの数々です。小学生である主人公が幼稚な下ネタでゲラゲラ笑うくらいならまだ可愛げがありますが、竹原ピストルさん演じる主人公の父親であったり、ブーメラン島への道中で出会うヤンキーであったり、良い歳の大人ですらそういう下ネタを連呼するのはどうも違和感がありました。正直観ていて居心地が悪かったですね。下ネタ苦手な方はご注意ください。
ただ、上記のような不満点を込みしても、観て良かったと思える素晴らしい映画でしたので、ぜひ多くの方にご覧いただきたいですね。オススメです!