「オリジナル脚本が持つ不思議なパワーが」サバカン SABAKAN 清藤秀人さんの映画レビュー(感想・評価)
オリジナル脚本が持つ不思議なパワーが
長崎の沖に浮かぶ島に行けばイルカが見られるという、そんなことあるだろうかという誘いに、少年は渋々乗っかってみた。乗っかったのはクラスで人気者の小学校5年生の久田、誘ったのはその貧しい身なりがバカにされているクラスメイトの竹本。幻のイルカと出会うために1台の自転車を漕いで坂を越え、下り坂ではすっ転び、島まで海を泳ぐうちに溺れかけながら、彼らの冒険は2度と来ない夏の思い出を互いの心に刻みつけることになる。
成長し、今は売れない作家である久田を演じる草彅剛のモノローグで始まる物語は、青春ノスタルジーにあるべき要素を各所に配置している。背景となる1980年代の世相、言葉も叱り方も乱暴だが愛に溢れる両親、貧しくても明るく心が挫けてない家族の風景、少年が冒険を持ちかけた本当の理由、2人が心の底で共有していた孤独と不安、紡がれる永遠の友情、やがて訪れる意外な結末etc。
映画ファンなら誰しも『スタンド・バイ・ミー』を思い出すかもしれない。他にも幾つかイメージするジャンル映画があるのだが、本作の価値は、これが原作ベースではないオリジナル脚本を基にしている点にある。恐らく様々な映画に影響を受けながら綴ったであろう脚本が、決して達者とは言えない子役たちの演技や、美しい日本の夏の風景によって具現化される時、オリジナルだけが持つ不思議なパワーを発揮するのだ。
実を言うと、筆者はラストで目頭が熱くなった。あなたはどうだろうか?今週末公開。
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