「単なる家族の記録ではなく、「今、ここ」を切り取った一作。」ぼけますから、よろしくお願いします。 おかえり お母さん yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0単なる家族の記録ではなく、「今、ここ」を切り取った一作。

2022年5月26日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

2018年に公開された信友直子監督『ぼけますから、よろしくお願いします。』の続編。前作は未見なのですが、信友監督の母親が認知症を患う前の日常風景から、映画として撮影を本格的に行うようになった過程、そして前作以降にどのような状況になったのを丹念に綴っていて、本作だけでも十分、監督の家族との日常生活を体験させてもらいました。

映画作品として制作するという方向性を定める以前から、これだけ家族の映像を記録し続けていたことに驚かされました。たとえばタイトルが登場する際に流れていた映像は、この時のために撮っていたとしか思えないような尺の撮り方、構図です。また前作がどのような反響だったのか、という、作品を舞台裏から見るような視点も盛り込まれています。

本作を撮影し始めた当初には予想もしていなかった、新型コロナウイルスの蔓延という状況は、認知症に向き合いつつも支え合っていた老夫婦にも大きな影響を及ぼします。世界の多くの人々が同じような状況に苛まれているだけに、その苦しみ、やるせなさは胸に突き刺さってきます。「まさか、このタイミングで…」と思わずにはいられませんでした。

たまたま監督の舞台挨拶がある回に鑑賞したので、上映後に監督から本作についての解説があったのですが、元々ご両親は互いの趣味に没頭する性格で、母親の認知症が明らかになるまでは割と互いの領域には立ち入らない関係だった、とか、興味深い話を伺いました。

yui