「大河風ドラマとビジネスドラマの二つのベクトルゆえの中途半端さ」アキラとあきら keithKHさんの映画レビュー(感想・評価)
大河風ドラマとビジネスドラマの二つのベクトルゆえの中途半端さ
今、最も注目されている作家の一人である池井戸潤氏の同名小説が原作の本作は、同氏の他の作品同様に企業社会のビジネス世界を描いたドラマですが、二人の銀行員の幼少期から一線の敏腕中堅までの数十年に亘る、時に交錯しながら対照的にパラレルに生きる生き様を描いています。
池井戸作品に共通しますが、厳しいビジネス社会を背景に、アナリシス、ブレスト、ネゴ、カンファレンス等でのシーンが大宗を占めるため、自ずとドラマは会議室や執務室での会話によって展開します。アクションシーンや広大な自然描写はなく、従い映像にスケール感はありません。
このジャンルで緊迫感を高め観客に感情移入させるには、ストーリーの仕掛けがリアルであり、その真相を解き明かしていくプロセスが緻密で説得力を有し、尚且つ主人公と相手方との昂った感情的ディベート風やり取りが求められます。
本作では、ミニ大河ドラマ風の歴史的背景を辿りつつ、冷徹で厳しいビジネス世界を描くという、両極端のベクトルを求めたせいでやや中途半端な印象があり、観終えた後に不完全燃焼感が残ります。
私の40年間のビジネスマン経験からしますと、会社経営のエッセンスを鋭く抉り出すために、本作の主人公たちが繰り出す数値群とロジックは、あまりにも初歩的でお粗末で、これでは一気に形勢逆転させるような決定的なブレークスルーにはなり得ないと感じます。
多分小説なら十二分に読者を惹きつけ魅了したのでしょうが、2時間に映像化されると、どうしても尺が足りず、人間ドラマ性もビジネスドラマ性も不十分に思えます。
大ヒットしたTVドラマ「半沢直樹」では、正義と悪が明確に分けられて各人のキャラクターがデフォルメされ、大いに視聴者を惹きつけ盛り上がりました。臥薪嘗胆、雌伏の時期を経た勧善懲悪は、古今東西、観客を感情移入させ魅了しますが、やはり2時間では描き分けきれなかったようです。
また本作が取り上げるビジネスでのエピソード群はあまり切羽詰まった切実な緊張感がせず、本作が背景とする1980年代後半から2000年代という、バブル絶頂から崩壊し奈落に落ち、金融危機、株式・不動産の暴落、不良債権の激増、企業倒産の激増という悲壮感に溢れた時代感覚とは乖離し、大いに違和感がありました。
私としては、やや白けた気分で観賞したしだいです。
ただラスト15分での竹内涼真扮する主人公と江口洋介扮するその上司とのやり取りになって、初めて映像に緊張感が漂いスクリーンに食い入るようになりました。但しこれは私が過去に関わった或る大口の投資案件の記憶とオーバーラップしたせいですが、江口洋介のキャラクターのエッジをもっと利かせれば、ストーリーにメリハリが出たのではないかと思うところです。