劇場公開日 2022年8月26日

「見る視点によって感想が極端に違うような作品…。」アキラとあきら yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5見る視点によって感想が極端に違うような作品…。

2022年8月28日
PCから投稿

今年257本目(合計533本目/今月(2022年8月度)33本目)。

原作小説はあるようですが、小説のあとにWOWOW版があり、それはネットフリックスで見ることができますが、どうも全部見てしまうと結局映画版はその「縮小バージョン」であるようなので、主人公の生い立ちなどがわかりうる1話だけを見てから向かいました。

その1話だけ見た感想、また、ここで事前に仕入れていた知識では、「そこそこ」法律系知識が要求され、しかも「会社法」>>「民法」といったところかな?と思えるのですが、実際のところは逆の感じです。

他の方も書かれている通り、小説版ないしWOWOW版を2時間に圧縮しているため、妙なセリフや途中のカットがわかりにくい点はまぁ確かにあります(ストーリーの接続が妙にうつってしまうなど)。ただそれより結局のところ、「単純な経済ネタ映画」として観るのか、「多少にも法律系の話題を扱う映画」として観るのかが人によってバラバラになりがちで、後者の類型で見ると結構な知識が要求されてしまいます。

(映画としての)ストーリーは他の方が書かれている通りで、名前(読み方)が違う2人が数奇な運命で同じメガバンクに就職した後、いろいろあったところ、とある会社の危機に際して書類を見ていたら、とんでもないこと(下記参照)が書いてあり、それをどう解消していくのか…という趣旨になります(ほかにも語り口はあると思いますが、もっぱら私は法律的な観点で見にいったので)。

ストーリーとしてはそれほど珍妙ではないのですが、小説版にせよWOWOW版にせよかなりの長さがあるものを2時間で収めたためにあっちこっち「飛び」がすごく、ある程度法律ワード(法律ワードというより、突き詰めると商法会社法と民法の話)が飛び交い、しかもそれもわかりにくい部分で説明も少ないので、うーんどうだろう…、評価は分かれるかな…とは思ったものの、今週(26日の週)は、作品が少なく、事実上本作品か「異動辞令~」の一騎打ち(そして、3番手にシーフォアミーが、入る形?)になるのでは…と思います。

娯楽映画として観るのは人それぞれだと思いますが、そこらの映画とはくらべものにならないくらいに求められる知識が高く、その部分で人を選んでしまうのかな…という気がします。ただ、だからってその部分まで(原作にない部分も含めて、一般大衆がみることが想定できる映画に対応して、追加して)作成すると4時間コースになりかねず、これもこれで仕方がないのかなぁ…という気がします。

採点にあたっては下記を考慮しています。

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(減点0.3) 上述通り、「一定程度の法律系知識」が要求される映画なので、それ前提で見るのか(視聴者側も最低限の知識を持っていることを前提にするのか)、あるいは単純な「娯楽映画」として観るのかがやはり人によってバラバラで、前者として観る立場(私はこの立場)では、「これは結構厳しいなぁ」というレベルです(映画版ゆえに圧縮しまくった関係で、説明が少ないか、固有名詞は出るもののその説明が不十分等)。

ただ、小説版にせよWOWOW版にせよ、あることないこと付け加えられないのはこれも確かであり、引いてもこのくらいではないか…と思います。
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 (▼参考/連帯債務と連帯保証、単純保証と連帯保証などのお話)

 ・ このストーリーにはこういったお話が出ます(なので、最初に「会社法>>民法」と書きましたが、会社法的なお話はほとんど出ません)。
 連帯債務も連帯保証も似た部分と違う部分があり、映画内で参照されているのは後者です。この2つは似た部分もあり条文(民法)上も準用(読み替え規定)があるものも多いですが、違う部分も多いです。

 そして、保証の中でも単純保証と連帯保証ではまた話が違ってきます。単純保証であれば、貸した金がかえってこない場合に、「まず主債務者に言え」と言えます(催告の抗弁権、452条)。それでもダメな場合、「主債務者から取り立てる財産があるなら、まずそれから手をつけろ(着手せよ)」とも言えます(検索の抗弁権、453条)。ところがこれは単純保証の場合で、連帯保証の場合はこの2つの権利を持ちません(454条)。つまり、「いきなり連帯保証人のところに金返せ」ということになります。

 ※ 催告・検索の抗弁権には特殊な例外があります。

 ところで、連帯保証人の場合、複数の保証人がいます(そうでないと「連帯」にならない)。このとき、例えば4人で1000万円の連帯保証契約がむすばれているとして、「いきなり飛び越えて金返せ」と言われても「4人いるんだから、自分は250万円しか払わない」とは言えません(「「分別の利益」がない」、といいます)。つまり、全額返せと言われたら全額返さなければならないのであり、全額返した場合の残りの主債務者と連帯保証人との関係は「そのあとで」調整する内容になります(債権者は原則関係してきません)。

 なお、映画内ではこれと組み合わせて「根保証」という概念も出てくるので結構厳しいです(なお、2020年から民法改正でこのあたりの条文が変わっているので、映画のストーリー内でこの「根保証」の論点の理解を本気で考えるとはまります)。

ただし、「根保証」それ自体は、実は「それほど」特殊なものではなく、実は身近に存在します。就職・転職された経験がある方は、就職転職にあたって「何か迷惑をかけた場合、連帯して保証します」というものを書かされたことがある方は多いと思いますが、これは実は「根保証」の一種です(「身元保証に関する法律」(1933年)がその最たる例)。

yukispica