「爽やかな潮風にのった歌声「青春の光と影」が心に響く、ルビーの旅立ちの物語」コーダ あいのうた Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)
爽やかな潮風にのった歌声「青春の光と影」が心に響く、ルビーの旅立ちの物語
両親と兄が聾唖者のロッシ家の中で、一人コーダ(聴者)の少女ルビーが才能に恵まれた歌に未来を託す旅立ちの物語。他者から見ると、朝3時に起床して父と兄に加わり漁の仕事を熟して登校する日常は、家族の犠牲になっているのではないかと思われるも、ルビー本人は特に苦も無く家族の中の役割と自覚している。その健気さがルビー本人の性格の良さと、両親の育て方が間違っていないことを表している。実際問題として聴覚障害者だけで漁をするのは、もし事件事故が発生した時に通信できない危険性があるし、またコミュニケーションの点で、仲買人から騙されて搾取される扱いを受ける場面もある。この厳しい家業と高校生活の板挟みに会いながら常に前向きに立ち向かうルビーの青春物語は、爽やかな潮風と彼女の心の叫びを込めた歌の共感性を映像に映し出していた。
ストーリーの流れは前半が予定調和で進み、脚本としては作為が目立ちます。“起承転結”でいうと、“起承”が長く、後半一気に“転結”が押し寄せる印象を持ちました。それは、この作品で私が一番心打たれたシーンから輝きを放ちます。沿岸警備隊に通報され多額の罰金を言い渡された晩の母と娘の会話シーン。ルビーが生まれた時の母ジャッキーが抱いた偽りの無い気持ちを告白する、その内容に驚きつつ、ここに障害を持った人でしか分かり合えない過酷さがあると理解しました。ルビーとジャッキーが語る台詞が素晴らしい。この後の兄レオとルビーのシーンもいい。そして合唱発表会の場面になりますが、ここで両親の視点に切り替えた演出には、正直やられたと思いました。上手いとか、ユニークだとかではない、聴覚障害者に寄り添う演出に一時でも体験させて貰えたことに感謝したい気持ちになりました。そして父フランクがルビーの歌う喉に手を添えるシーンも感動的です。クライマックスは娘ルビーの夢を叶えるべく家族で向かうバークリー音楽大学のオーディションシーンで、ベルナルド先生の気を利かせたユーモアからの、家族の為の手話歌唱、そのジョニ・ミッチェルの「青春の光と影」の途中からその後の家族の変化をモンタージュした編集の巧さ。歌詞の言葉とルビーの想いが奇麗に重なります。それはルビーの為に作られたのではないかと錯覚してしまうほどに。
前半は教育映画のような素直な演出で、技巧の冴えはない。対して後半の演出と脚本は、良い映画を観た感動に導いてくれる。勿体ないと言えば勿体ない。それとボーイフレンド マイルズとの関係が曖昧な表現に終わり、ルビーの心の成長に関わっていない不満も残る。役者では、主演のエミリア・ジョーンズの自然で濁りの無い演技が素晴らしい。実際の聴覚障害者の俳優である、トロイ・コッツアー、マーリー・マトソン、ダニエル・デュラントは、卑猥なキャラクター付けを明るく転化していて其々に味のある演技を見せてくれる。ベルナルド役のエウヘニオ・デルべスも一寸変わった個性的な音楽教師をそつなく演じています。
この映画の良さは、どんな環境に置かれても家族の愛に包まれた主人公が自分の長所に自信を持って将来を見通すストーリーとして、名作「リトルダンサー」に類似しているところであり、幅広く観る人に清々しい感動を与えてくれる人間ドラマになっていることです。今の時代に必要なメッセージも優しく描かれている。模範的な青春映画の秀編でした。
おはようございます。丁寧にご返信頂きありがとうございます。僕も貴殿と同じ様に今は思っています。 それで、
手話の表現の限界を感じ、世界の手話が全世界共通じゃないと知りました。
それならば、共通にすれば良いのにと感じた次第です。
映画の字幕の件ですが、僕は映画を見る時は字幕をONにして見ています。配信の映画はミュージカル映画以外は日本語で見ています。割りと字幕の日本語って誤訳が多いなぁって気付きました。もっとも、音声が間違っている可能性はありますが。
『ベートーヴェン』まだ、見ていないので、見てみようと思います。
長々とすみませんでした。よろしくお願いします。
共感ありがとうございます。僕は雑に映画を見るタイプなので、貴殿のレビューにはいつも感心しています。
さて、マリー・マトリンのあのセリフに僕は少し閉口してしまいました。マリーマトリンの『愛は静けさの中に』を見返してしまいました。リトル・ダンサーの『母親のピアノ』を燃やしてしまったのと同じ様な表現かなぁって今ではお待っていますが、老いている事以外、健常者になると思うので、彼らを理解出来ないのは仕方ないのでしょうか?
今日は休みだったので、こんな時間にすみませんでした。