「オリジナルもよいが、こちらも傑作」コーダ あいのうた 悶さんの映画レビュー(感想・評価)
オリジナルもよいが、こちらも傑作
【鑑賞のきっかけ】
以前から映画ファンの間で評判が高いのは知っていたものの、未見だった本作品。
アカデミー賞の受賞で、公開期間が延長され、それでも近くの劇場は終映間近。
ぎりぎりのところで、劇場鑑賞できました。
【率直な感想】
本作品にはオリジナルのフランス映画「エール!」があることを知り、契約している動画配信で鑑賞できたので、まず、そちらを鑑賞。
これが、さすがリメイクされるに相応しい秀作。
この感動なら、二回味わってもいいな、と感じ、リメイク版である本作品を鑑賞したのです。
ただ、本レビューで「エール!」に触れると、「エール!」を未見の方の楽しみを奪うことになりますので、このレビューでは「エール!」の内容には全く触れないように、配慮しています。
<コーダについて>
私は、本作品の原題「CODA」について知らず、主人公の女性の名前かな、なんて考えていました。
CODA=Children Of Deaf Adult/s
なるほど、「聞こえない・聞こえにくい親を持つ聞こえる子ども」の略称ですか。
確かに主人公の高校生ルビーは、コーダですね。
このコーダを知った時、感じたこと。
それは、映画の題名で使われるということは、この略称がアメリカでは広く普及しているということ。
略称になるということは、対象となる子どもたちがアメリカ社会にはある一定数存在し、社会的に認知され、何らかの社会的支援が行われているのではないか、ということでした。
調べてみると、1980年代から使われ始めた言葉で、日本では、1990年代に、J-CODAという組織が発足しているようです。
<物語前半のポイント>
公式HPを見ると、物語前半部分のストーリーは、うまくまとまったものがあるので、そちらを参考にしていただくとして、ここでは、物語全体を通して、重要と思われるシーンを3つ紹介します。
1.大音響の楽曲
物語の始めの方で、下校時に、高校生ルビーを迎えに、両親が車でやって来るシーンがあります。
この車からは、大音響の音楽が。
眉をひそめる学友たちの視線に、ルビーは、ボリュームを下げるように強く言い放ちます。
音がよく聞こえないから、両親が音の大きさに気づかなかったように思われるこのシーン。
私は、別の意味合いが含まれる、重要なシーンと感じました。
2.音楽教師との会話
ルビーの才能を見出した音楽教師から個別のレッスンを受けるようになった当初、こんな会話のシーンがあります。
「君は歌っているとき、どのように感じているのかな?(How do you feel when you are sing?)」という教師の投げかけに、
「説明するのは、難しいです。(It's hard to explain.)」
と黙り込むルビー。
目線で答えを促す教師に、ルビーは……。
この「……」が、私の脳裏に深く刻み込まれています。
3.ダブル・ミーニング
個人レッスンが進む中、教師がルビーに、楽譜の読み方を教えている風景が少しだけ描写されます。
そのテーブルに広げられた教科書らしきペーパーには、「音楽記号としてのcoda」が書かれているのです。
これで、題名の「CODA」は、「聞こえない・聞こえにくい親を持つ聞こえる子どもの略称」と「音楽記号」のダブル・ミーニングであることが分かります。
<物語後半のポイント>
公式HPでも、分かるとおり、ルビーは音楽大学への進学を諦めかけてしまいます。
でも、このまま終わったら、映画にならないですよね。
だから、音楽の道を進む方向にベクトルを変換させないと物語が進行しない。
でも、それには、何らかの急展開が必要。
そして、実際に「急展開」は訪れます。
しかも、それは、「映画ならではの演出」を使うのです。
私はこの演出には大変に驚き、かつ感動しました。
そして、物語は、ひとつのエピソードを紡いだ後、感動のラストへ。
【全体評価】
本作品は、「エール!」で制作サイドが伝えたかったことを見事に踏襲しつつ、独自の脚色をした、傑作中の傑作に仕上がっていたと思います。
本作品に感動したなら、「エール!」は、絶対のオススメ。
昔のグリコの宣伝ではないですが、ひとつのネタで、二度美味しい!
たくさんの共感ありがとうございます。
「さがす」のレビューも読んで頂いて恐縮です。
私も「コーダ」を観てから、配信で「エール」を観ました。
実は「エール」は数年前のDVD新作時に観てましたが、
「コーダ」を観て改めて観ると感慨深いものでした。
私は耳の聴こえない両親には「エール」では“耳鳴り”のように
反響しているのがとてもリアルでしたし、悲しかったです。
悶さんのレビューで
コーダについての言及・・・
アメリカでは一般的呼び名で、
〉アメリカでは社会に認知され社会的支援が受けられるのではないか?
と書かれてる点に共感しました。
アメリカは福祉がとても進んでる先進国ですね。
日本人のコーダは、もしかしたら孤立無縁かもしれませんね。
(推測ですが、)
またまたお邪魔して長話をすみません。
私が好きな映画は社会性のある作品です。
「MINAMATA」や「FUKUSHIMA50」や「新聞記者」は見応えがありました。
「ドライブ・マイ・カー」も挑戦する姿勢が好きでした。
悶様
お邪魔します。とても丁寧に観賞されていて、共感しました。
「エール!」は未見ですが、悶さんのコメントを読んで、観てみたくなりました。
しばらくは本作の余韻に浸りたいので、いつか時間を空けてからにしようかと思います(笑)。
>そして、実際に「急展開」は訪れます。
しかも、それは、「映画ならではの演出」を使うのです。
私はこの演出には大変に驚き、かつ感動しました。
このシーンは、本当にすばらしかったですよね。あのような演出は私は初めてで、とても不思議な映画体験になりました。そして、突然の急展開!心を揺さぶられ、「この映画、大好きだ!」と思いました。
赤ヒゲでした。