「聾唖の苦悩と希望を描く傑作」コーダ あいのうた ゴールド寿司さんの映画レビュー(感想・評価)
聾唖の苦悩と希望を描く傑作
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特質すべき点は多々あるが、多くは語らない。
子を持つ父親である自分が、一番胸に響き、泣いてしまったシーンについて。
終盤。
歌の発表会で、主人公のルビーが、大勢の観客と聾唖の家族が見守る中、その歌声を披露するシーン。
歌い始め、その美声にうっとりした瞬間、突然、映画の全ての音がシャットダウンする。
耳が痛くなる程の静寂。
ルビーの美声に酔いしれる観客の映像とは裏腹に、不気味なほど不釣り合いな「沈黙」だ。
ここで映画を観ている我々は、ハッと思い知らされる。
そうだ、聾唖の家族の世界では、常にこの「沈黙の世界」なのだ。
結局我々映画の観客も、「分かったつもり」でこの作品を観ていなに過ぎない。
声も歌も音楽も聴こえていた前半は、聾唖者の気持ちなど分かりえなかったのである。
父親は娘の歌声に感動する人々の表情をじっと見る。
皆、娘の歌声に涙している。間接的にしか分からないその歌声に、父親の表情は暗い。
誰より娘を愛している筈の自分は、その声が聴こえないのだ。
その日の夜、父親はルビーに「自分の為に歌ってくれ」と言う。
そして歌うルビーの頬を、喉を指で触り、聴こえない娘の声を感じようとする。
最も愛する子供の声を聴けない絶望と悲しみを、まるで今初めて思い知ったかの様に。
聞こえる筈のない声を必死に聴こうとするその父親の気持ちに、自分は涙を禁じ得なかった。
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