「特殊性から考える普遍性」コーダ あいのうた のむさんさんの映画レビュー(感想・評価)
特殊性から考える普遍性
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「耳の聞こえない両親のもとで育った子ども」というのは、あまりない環境だと思う。そういった環境に名前があることも、この映画を見るまで知らなかった。映画には、こう言った自身の知らないことを教えてもらえるという良い面がある。
しかし、この映画が素晴らしいのはそこだけではないように思う。この映画の中に描かれていたのは、伝える手段を持たない相手に、どうやって伝えるかという普遍的な「相互理解」だったのではないか。「歌うときどんな気分だ?」と聞かれたとき、彼女は「気持ち」という抽象的な概念を伝える「言葉」を持たない。そのとき彼女がたどたどしく表現した「言葉」がかくも美しく、感動的だったのは、苦しみながら紡ぎ出すように生み出されたものだったからだ。娘の歌を「聞く」ために、すがるように喉元に手を伸ばす父があんなにも悲しく美しかったのは、決して叶うことのないものを理解したいという渇望があったからだ。自分の気持ちや家族という、一番わかっていると思い込んでいるものに対して、わかり合いたいという人間の本質が描かれている素晴らしい映画だった。
I've looked at life from both sides now
I really don't know life at all
私は耳の聞こえない世界を本質的に知ることはできない。それでもその世界を理解したいと思う。私は何も知らない。それでも想いを伝えたい、想いを理解したいという気持ちは普遍的なものだ。この映画は決して自分と違う境遇の人間の話ではなく、私の話だ。アカデミー作品賞、伊達ではない。
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