「大きな家族愛を描いた感動作」コーダ あいのうた といぼ:レビューが長い人さんの映画レビュー(感想・評価)
大きな家族愛を描いた感動作
予告編を観て面白そうだったのと、非常に評価が高かったので今回鑑賞しました。
本作は2015年公開の『エール!』のリメイク版になりますが、こちらの作品は観ていないので、あくまでも本作単体での評価になります。
結論ですが、めちゃくちゃ良かった。劇中何度も涙腺が緩みそうになりながらも、何とか耐え抜きました。歌も素晴らしかったし脚本も素晴らしかったし、何より役者陣の演技が本当に良かった。劇中に登場する聾唖者は、実際に聾唖の俳優さんたちが演じることで非常にリアリティがありましたし、主人公ルビーの父親を演じたトロイ・コッツァーはアカデミー賞助演男優賞にノミネートしたり、聾唖者として初めてのオスカー賞候補になるなどの輝かしい功績を残しました。この演技は実際に見てみないと素晴らしさが伝わりません。ぜひ劇場でご覧になって欲しい作品です。
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海辺の町で、家業である漁の仕事を手伝いながら高校に通うルビー・ロッシ(エミリア・ジョーンズ)は、両親と兄との4人家族で唯一耳が聞こえる健聴者(コーダ)であった。彼女は歌が好きだったが、過去に喋り方を揶揄われた悲しい経験から人前で歌うことを苦手としていた。ルビーは、片思い中のクラスメイトであるマイルズ(フェルディア・ウォルシュ=ピーロ)が選択授業で音楽の授業を取っているのを見て、自身も音楽の授業を選択する。その授業で教師を務めていたベルナド・ヴィラロボス(エウヘニオ・デルベス)は、彼女の並外れた歌の才能に気付き、バークレー音楽学校への進学を推薦するのだが……。
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恥ずかしながら私は本作で初めて「CODA」という単語を知りました。「Children Of Deaf Adult/s」の頭文字を取った言葉で、「聾者の両親を持つ健聴の子供」という意味です。家庭内での会話ができないため発話に若干の問題を抱えてしまったりするらしく、本作の主人公であるルビーも入学時に「声が変だ」と同級生からからかわれたという描写が出てきますね。
本作で一番多くの比重を占める部分と言えば、やはり「CODA」であるルビーと家族との関係性の描写。家族でただ一人の健聴者であるが故に、通訳のような仕事を付きっきりでやらされていた彼女が、家族から離れて夢を追いかけたいと思うようになる。彼女の家族もまた、難聴者に対して厳しい社会の中で健聴者の彼女無しで生活ができるように奮闘する。「親離れ」と「子離れ」を同時に描いた作品で、家族映画として本当に素晴らしかった。
障がい者を「神聖で無垢なもの」として描かず、「一人の人間」として描いていることに好感を持ちました。最近は特に、障がい者やLGBTQの表現に対して風当たりが強く、彼らをどこか「穢れなき存在」のように描く作品が横行しているように感じていました。私の知り合いにも障がい者や同性愛者がいますが、彼らは決して神聖な存在ではなく普通の人間です。良い人ももちろん多いけど、悪い人だっています。だからこそ、最近の映画における障がい者の描写には強い違和感を感じていました。
しかし本作において聴覚に障害を持ったルビーの家族は、どぎつい下ネタも言うし昼間からセックスはするし、どこにでもいる「一人の人間」として描いているんですよね。私はこれこそが正しいポリコレの姿のように感じます。
本作に登場する聾唖者は、実際に聾唖の俳優さんが演じています。監督であるシアン・ヘダーは彼らの出演に対して「聾唖の俳優が聾唖の人物を演じるのが自然だ」とパンフレットのインタビューで語っており、映画の撮影が始まる前に手話をマスターし、手話通訳を介することなく直接演技指導を行なったそうです。このエピソードだけでも監督の映画に対する並々ならぬ情熱と出演俳優へのリスペクトを感じます。
主人公の父親役である聾唖の俳優トロイ・コッツァーも「こんなに良い現場は初めてだった」と語っています。そしてそんな素晴らしい現場が、トロイ・コッツァーをゴールデングローブ賞やアカデミー賞に助演男優賞としてノミネートするという快挙を生んだんでしょう。
語りたい感動的な場面や笑った場面がたくさんありますが、挙げればキリがないので割愛。ぜひ多くの方に鑑賞してほしい映画でした。オススメです!!
【4月1日追記】
アカデミー賞作品賞と、トロイ・コッツァー氏の助演男優賞受賞、本当におめでとうございます。アカデミー賞をきっかけに上映館数がまた増えたらしいので、更に多くの人が本作を観てくれそうですね。一ファンとして、非常に嬉しいです。