「ほっこりと感動する」コーダ あいのうた 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
ほっこりと感動する
フランス映画「エール!」は当時上映中だった映画館で鑑賞した。歌の才能のある女子高生が家族の困難を乗り越える成功物語だったと記憶している。若い恋も盛り込んだ王道の作品である。
本作品はその「エール!」のリメイクで、あちらが農家だったのに対して本作品は漁師の一家という違いはあるが、家業にピンチが生じているときに娘に歌の才能が発見されるというドラマチックな展開はまったく同じだ。展開が同じなのにまたしても感動してしまうのは、物語に力があるからである。それが分かっているからこそのリメイクなのだ。
あとは登場人物をどれだけ魅力的に描き切るかの勝負であり、本作品はそれに見事に成功している。特に主人公ルビーのキャラクターがいい。寛容で愛と優しさに満ちているが、時折は17歳らしい癇癪も起こす。
イタリア人の音楽教師はズケズケと物を言うが、若い頃の情熱を失っていない。永遠の青年である。この教師の存在がなければ物語が成り立たない重要な役どころだ。ルビーの両親はあけすけキャラで憎めない。父親には哲学があり、母親はリアリストで視野が狭いが、いずれもルビーに対する無償の愛がある。
聾唖や盲目、その他のハンディキャップがある人は世の中にたくさんいる。大事なのは彼らのことを理解することではない。目が見える人に盲目の人のことは理解できない。大事なのは、ハンディキャップの有無に関わらず、その人の人格を重んじるということである。
人格を重んじるということは即ち、その人たちが生きやすい社会を作るということである。ハンディキャップのある人のために税金を多く割いたからといって、それを不平等だと主張するような人がいない社会を作ることである。そういう社会は未だに実現されていない。
さて、ルビーの歌はたしかに上手いが、歌で生きていけるほど上手いのかは、映画を観ていても分からない。しかし家族はルビーの自立を手放しで喜ぶ。多分自分たちはなんとかなる。家族はどこまでも楽観的だ。これからも沢山の不運が家族を見舞うだろうが、この家族なら笑って乗り越えていけそうである。
ほっこりとするいい作品だと思う。