「すぐれた雰囲気」アントラーズ 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)
すぐれた雰囲気
リザベーション(インディアン保留区)が舞台になっている映画は暗い。スコットクーパーやテイラーシェリダンの雰囲気。
『ほとんどすべての保留地は産業を持てず、貧困にあえいでいる。また、保留地で生活する限り、そのインディアンにはわずかながら条約規定に基づいた年金が入るため、これに頼って自立できない人々も多い。失業率は半数を超え、アルコール依存症率は高い。』
(ウィキペディア、インディアン保留区より)
リンカーンの言った人民のなかにインディアンは含まれていない。なぜアメリカではリンカーンを持ち上げるのかよく解らない。研究者の解釈ではなく、いっぱんの肌感にすぎないが、かれは平等ではなく平等をスローガンに巧く立ちまわっただけの人だった。
スコットクーパー監督のたぶんはじめてのホラー。ぜんぶ見ているわけじゃないが一貫して酷薄な世界をえがいてきた人だと思う。ローカルの気配、やつれた生活者の吐息感がリアル。それはとくべつな補正なしでホラーに合性する。暗鬱な雰囲気がいい。
ケリーラッセルとジェシープレモンス。リザベーションゆえ名優グレハムグリーンもいた。懐かしいエイミーマディガンもいた。痩せ、うらぶれた感じの子役JeremyT.Thomasもよかった。過去作いずれも配役にズラリとドル箱俳優を揃える監督だったが、ここでも役者がそろっていた。
伝承を翻案した話も悪くないし、クリーチャーの造形もいい。
なのにIMDBがぜんぜん伸びていないのはなぜだろう。5.9だった。
国内映画レビューサイトの値(評価点)は信頼できないがIMDBの値は信頼できる。わたしは小市民なので、映画を見る前や見た後にIMDBの値と、じぶんの評価点をくらべる。おおむね合致しているが、ときどき齟齬がある。
ごぞんじのとおりIMDBのK点は7だが、ホラーなら6でも佳作。5.9はわるい値じゃないが、個人的には6.7±0.3を予測していた。この映画はとてもよかった。
本作を見てテイラーシェリダンがウィンドリバーやシカリオの空気感でホラーをつくったらすごくいいのにな──とやはり思った。定見だが、ホラーは映画監督の基礎演出能力を如実にする。