殺すなのレビュー・感想・評価
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井上昭監督を偲んで
井上昭監督
1月9日脳梗塞と肺炎のため京都市内の病院にて93歳で他界
初鑑賞
52分
原作未読
原作は『たそがれ清兵衛』『隠し剣 鬼の爪』『蟬しぐれ』『武士の一分』『必死剣 鳥刺し』『小川の辺』の藤沢周平
監督は『眠狂四郎 多情剣』『子連れ狼 その小さき手に』の井上昭
脚本は『座頭市(1989)』『あ・うん』『子連れ狼 その小さき手に』の中村努
江戸の長屋
かつて不義の疑いの妻を斬り殺し悔いる浪人と駆け落ちの男女
夫に居場所がばれ女は橋を渡り家に帰っていく
愛しいなら殺してはならん
至極当たり前のことである
しかし飛び込んでくるニュースの数々を知るとその当たり前のことができない人は世の中にわりとたくさんいることに引いてしまう
メインは柄本佑安藤サクラ夫婦演じる訳あり男女
主人公の浪人はいわば狂言回し的な役割をしている
安藤サクラが物憂げにボーとしていることが多いのだが声をかけられハッとするリアクションが良い
浪人に身の上話を聞かされ眉間に皺を寄せるあの表情も良い
本田博太郎の粘りっこい演技はいつも以上
男の方が悶える柄本安藤夫婦の濡れ場は妙な説得力があった
今にも出そうな感じは上手に表現できていた
なんてことはない話かもしれないがまず第一に映画は好きな役者の芝居を楽しむもの
玄人からすればなによりも脚本だろうが尾上松之助や片岡千恵蔵の時代から考慮すると昔から多くの映画ファンはそうではあるまい
その点で安藤サクラと本田博太郎は最高だった
長屋で筆作りの内職をしている浪人・小谷善左エ門に中村梅雀
お峯と駆け落ちした船頭の吉蔵に柄本佑
利兵衛の妻でありながら吉蔵と駆け落ちした多情な女・お峯に安藤サクラ
料亭・有明屋の女将おはなに中村玉緒
小谷善エ門の妻に佐藤友紀
船宿・玉木屋の主人でお峯の夫の利兵衛に本田博太郎
カッとなっても殺しちゃいかん
妻の不倫を疑い、斬り殺してしまったことを悔いている浪人の小谷善左エ門は長屋で筆づくりをして生活していた。そして、同じ長屋の船頭吉蔵から、一緒に暮らすお峯の様子を見るように頼まれていた。2人は駆け落ちし、世間から隠れるようにして暮らしていたが、お峯は橋の向こうへ行けず退屈な日々に虚しさを感じていた。橋を渡りたいお峯と、居場所が知れることを恐れ、橋を渡るなという吉蔵の様子を、善左エ門は自ら手にかけてしまった妻とダブらせていた。吉蔵とお峰はどうなる、という話。
52分と短いがなかなか趣のある作品だった。中村梅雀、柄本佑、安藤サクラの3人の芝居はさすがに素晴らしく、入り込んでしまった。
カッとなっても殺しちゃいかん、って善左エ門の懺悔を描いていて良かった。
本来「時代劇専門チャンネル」用の作品の劇場公開なのでこんなもんでしょう。(それでもヒットしたら直ぐに「劇場版」とか言ってTV番組を大スクリーンに移すだけの作品よりましだけど)。
①安藤サクラがお美根という女の魔性というか如何にも“女”という風情をそこはかなとなく醸し出しているところに、やはり並みではないこの女優の力を見る気がする。②本田博太郎が妻を寝取られた男として強面役かと思えばどこか可笑しい旦那役でア有り体に言えばよくある不倫劇で巧いアクセントとなっている。
一途な男と多情な女
長屋で身を隠すように暮らす男と女と、向かいに住む暗い過去を償いながら生きる浪人の話。
堀場の船宿の女将と雇われ船頭が駆け落ちし、本所辺りの長屋で暮らしてはいるものの、男の愛情は深まる一方、女は嫌いになった訳ではないけれど…という物語。
夫婦かと思ったら、不倫関係ということなんですね。まあ実際には夫婦ですけどw
毎日橋を眺める女の寂しさ、女が橋を渡るんじゃないかと気がかりな男の不安、そして二人からそれぞれ事情を聞いて自身の過去を振り返る浪人の後悔、そして三人共が抱える哀しさ、と派手な作品ではないけれどそういうものがひしひしと感じられた。
メインの3人共が正に「役者」ということなんでしょうね。
時代劇という人情もの
「時代劇専門チャンネル」制作のドラマを特別上映という事なので、52分だし映画的な画面作りとは言い難いが、柄本佑&安藤サクラ夫妻と中村梅雀氏がお見事だし情感ある撮影も良かったので、じんわり沁み渡りました。
やっぱりチャンバラが好きだし渇望しているけれども、こういう人情ものも合わせて時代劇の火が消えない事を切に祈ります。
追記:本田博太郎さん…もーね、流石です!としか言いようがない(笑)
匠の技が光る一作。
上映時間約50分と、劇場映画としては短めですが、テレビドラマの時間標準的な長さとなっています。少しずつ人物同士の関係や背景が見えてくる演出は見事です。そうした人物造形は、細かな台詞に頼らず、ほんのちょっとした表情や仕草の変化、小道具などによって語られます。
このそぎ落とした演出力で、50分という作品時間を描く試みは見事に成功しているのではと思いました。ほとんどの舞台を橋のたもとと二つの民家の内部に限定したのは、予算上の都合もあったと思われますが、それがむしろ、同じ場所の表情を、時間帯による光の変化を使って描くという演出を効果的なものとしています。筆を作る際の手の表情、調度品などを映し出す光も美しく、どのように光を当てれば対象が最も映えるのか知り尽くしている、まさに職人技術の塊のような作品です。
大きな起伏というものが全くというほどない筋立てなので、すぐにチャンネルを切り替えられるテレビでドラマとして公開するのは正直言って難しかったのではと思いますが、だからこそ精神を集中して鑑賞できる劇場向きの作品ではないかと思います。
藤沢周平の短編小説が原作ですが、せっかく安藤サクラを起用したのだから、お峯像も現代にあわせて多少なりともアップデートして欲しかったかな、とは思いました。
短編でも十二分に愉しめる
最近上映される時代劇はほとんどハズレがないので、中村梅雀、柄本佑の共演を知り鑑賞。柄本佑で時代劇といえば『居眠り磐音』の小林琴平が良かった印象がある。いつも前情報なしで見るので、52分の短編とは知らず、相変わらず水戸黄門の八兵衛並みのおっちょこちょいな私。なんと、これも知らなかったのだが(ポスターをよく見てなかっただけなのだが…)、柄本佑は安藤サクラとの夫婦共演で、それも駆け落ちした恋人役。時代劇全盛の頃は夫婦共演も珍しくなかったのかもしれないが、今ではほかに例をあまり知らず、それも互いに細やかな機微が感じ取れる、まさに“熱演”だった。私は朝ドラをほとんど見ないので、安藤サクラさんの演技をじっくり観たことがなく、時代劇でこれほどの演技ができるとは、今日では稀有な女優さんであると認識できたのは収穫だった。
もちろん主役の梅雀さんもお父さんほどの貫禄はないものの(失礼!)、これも『磐音』の金兵衛以来でいつもの自然体で隠居で長屋住まいの浪人を体現。この人はホントに人がいいんだろうと思わせる芝居ですね。短編でも十二分に見応えがあります。それも、CATVで観るより、この作品はやっぱりスクリーンで観た方が映えます。
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