「ゴグとマゴク」デューン 砂の惑星 PART2 かなり悪いオヤジさんの映画レビュー(感想・評価)
ゴグとマゴク
『スパイスを制するものは世界を制する』映画冒頭“ボイス”で語られるこの言葉は、おそらくユダヤ人政治学者ヘンリー・キッシンジャーの名言からの引用であろう。フランク・ハーバードが書いた古典SFの完全映画化を望んだと伝えられるドゥニ・ヴィルヌーヴの意図がはたしてどこにあったのか。パート1を見た限りではハッキリとは分からなかったのだが、小説の中と下を合体させたパート2を観てなんとなくわかった気がしたのである。
架空の惑星デューンが舞台になっている原作小説は、作家のイスラム文化に対する傾倒が感じられる斬新なタッチが、発表当時の読者にすこぶる受けたという。救世主をモチーフにしているせいもあり、『スターウォーズ・シリーズ』と比べたがる人が多いのも頷ける内容だ。しかし、ティミー演じるアトレイデスの王子ポールが砂漠の民フレメンを率いて父親の復讐を果たす物語は、有名な予言がベースになっていると思われる。
ガザのパレスチナ虐殺が一向におさまる気配のないイスラエルで、現在まことしやかに囁かれているある噂があるのをご存じだろうか。マゴクの地の首長ゴグがイスラエルに大軍を連れて攻めこんでくるという、旧約聖書エゼキエル書38章に書かれている予言が現実化しつつあるというのだ。マゴクとは現在の世界地図でいうロシアにあたり、ゴグとはつまりプーチンのことではないか、と。イスラエルではそのアルマゲドンに備えるために、どの家庭も1ヶ月分の水と食糧を備蓄しているんだとか。
なんでロシアがイスラエルに?と不思議に思われるのかもしれない。ウクライナにおいてロシア系住民を迫害していたネオナチの正体は実はユダヤ人であり、イスラエルの宿敵イランとロシアの親密な関係を知っていると、まんざら風評とも言いきれない現実味を帯びてくるのである。つまり、ロシアとイランを挑発してアルマゲドンを勃発させ、真の救世主到来を待ち望んでいるイスラエル=ユダヤ人という構図が浮かび上がって来るのである。
旧約聖書の予言によると、アルマゲドンに際し怒った神が空からミミズのようなもの(砂蟲?!)を降らせる相手はイスラエルに攻め上るゴクたちの方であり、本作とは真逆の記述になっている。スパイス採掘のためフリンジたちを平気で虐殺するハルコンネン軍は、誰がどうみても無力なガザ市民をひたすら虐殺するイスラエル軍そのものであり、それを空の上から傍観する領主大家たちはイスラエルを支持するNATOにそっくりだ。不思議なことにフランク・ハーバードの予言の方とピタリ一致しているのである。
そんな反ユダヤ主義の映画がハリウッドで作れるのかって?実はこの映画の製作会社レジェンダリーは、2016年に中国系の製作会社に買収されているため、たとえユダヤの爺さんたちの顔色を伺わなくともヴィルヌーヴが自由に映画を撮れる環境がすでに出来上がっていたのである。いずれにしても、旧約聖書をモチーフにしている古典SFを映画化するタイミングとしてはバッチリであり、勝利をおさめたゴクことポールの苦悩が描かれるパート3『砂漠の救世主』に乞うご期待といったところだろうか。