「The Duke」ゴヤの名画と優しい泥棒 重金属製の男さんの映画レビュー(感想・評価)
The Duke
いかにもイギリス映画っぽさ全開の映画。ユーモアに富んだテンポ良く展開する台詞と元になったという史実がイギリス映画らしさを演出していて良かった。ここ何年かはこういったコメディ映画をなんとなく避けていたが、久しぶりに見てみると心がスッとした気持ちになる。こんなご時世だからなのだろうか。
1961年。深夜のナショナルギャラリーから、かの有名なゴヤの作品が盗まれた事件がこの映画の軸なのであるが、そこに至るまでの背景こそが主題なのである。それは現代にも通ずる貧富の差がもたらす社会問題。昨今の日本も同じである。政治に精通していない私ですら「そんなことに税金を使いますか?」と言いたくなる局面は多い。誰かが現代美術館からアンディ・ウォーホルのマリリン・モンローを盗んだとしてもこの映画のようには済まないだろうが、SNSでなんらかの問題に対して声なき声を挙げる人々はよく目にする。弱者が強者に声をあげて変化を求める構図はどの時代にも通底しているのだ。
そしてほんのり家族愛を感じさせるサイドストーリーも描かれており、映画のラストは少し涙を誘う場面も。自分の夫が「国営放送の受信料支払いを拒否した罪」とはいえ何度も刑務所に入っていたら呆れて見捨ててしまうだろうか。自転車事故で娘を亡くした過去や、息子たちとの向き合い方などの問題を抱えながら長く連れ添ってきたケンプトンとドロシーは、ちょっとやそっとじゃ壊れない絆を結えていた。お互いの思想が必ずしも合致していなくとも、「あなたは私、私はあなた」なのである。