「エモーショナルな構成が見事」やがて海へと届く つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
エモーショナルな構成が見事
クリックして本文を読む
すみれが遠野と同棲を始める引っ越しの日、岸井ゆきの演じる真奈が目に涙を浮かべるシーンがいいと思った。このときはそれしか考えなかった。
真奈の想いが一気に形になったシーンで実にエモーショナルなのである。
この作品は、過去を回想する形で物語が進み、穴だらけのピースが埋まっていく。そして最後にすみれのパートが入り全てが明らかになる構成は見事。
最後のすみれのパートがくる前までは、すみれとはよくわからない、謎の女性に見えるのだ。
だからこそすみれの視点というのが観ていても抜け落ちる。真奈が主人公というのもあるが、謎の女性すみれのことなど考えないのだ。
最初に書いた真奈が涙を浮かべるシーン、カメラの手前にはすみれがいる。画面には映っていなくともすみれはいる。
観ている私たちが、真奈の涙に真奈の感情を読み取ったならば、同じように見ていたはずのすみれが何も思わないはずはないんだ。
自分の感情の最後の一歩を踏み出せないままちょっとした勘違いからすれ違っていく真奈とすみれ。
真奈の気持ちに気付いたとき、少しだけ手遅れで、それを再びやり直すにはまた時間がいる。その時間を作ろうとした旅先での不幸。
真奈とすみれの溝は、永遠に埋めることができなくなってしまった。時が止まってしまった。
すれ違ったままどうにもできず、残った真奈が真実を知れたのかどうか定かではないところも切ない。
ただ事実を受け入れ前に進むしかない。
コメントする