「その風景、人々にじっと見入ってしまった」クナシリ 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
その風景、人々にじっと見入ってしまった
これほど国後島の姿をまざまざと目にするのは初めての経験かもしれない。旧ソ連時代のベラルーシで生まれ、現在はフランスに住むというコズロフ監督が、ロシア連邦保安庁の特別許可を取り付けてカメラを回したという本作。となると、制作体勢としてかなりロシア側の意向に沿った作品に陥りがちな気もするが、完成したこの映画には、意外なことにロシアにとって都合の悪い言い分さえ含まれていて驚いた。その点、さすがフランス映画と言うべきか。本作が映し出す国後島には、美しく豊かな自然や風景があるし、普通に暮らしている人々だって多くいる。と同時に、戦争の残骸が今なお残り、社会に置き去りにされたみたいに不便な暮らしを余儀なくされる人がいて、ゴミの投棄で荒れ果てた場所もあるようだ。島民の一人がこぼす一言はとても複雑な余韻を残す。とはいえ、これは決して政治的な映画ではない。難しい話を抜きにして、じっと見入ってしまえる作品である。
コメントする