劇場公開日 2023年8月25日

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「壮大なほのめかし」君は行く先を知らない 文字読みさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0壮大なほのめかし

2023年8月31日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

2021年。パナー・パナヒ監督。イランのある家族は車でどこかに向かっている。運転している長男の「旅」に関連しているらしいが、詳しくは説明されない。車内ではなぜか4か月前から足にギプスをつけたままの父親と、無邪気にはしゃぐ小学生くらいの次男、そして助手席で長男を心配しながら見つめ続ける母親がいる(後部トランク部分に犬がいるらしいが外に出ているとき以外は映らない)。閉塞空間で描くのはつまり家族の形だ。
長男の「旅」は秘密裏に、どこぞの組織の助力を借りなければならないらしく、まあ亡命の類なのだろうが、それは一度も明言されないままドラマは続く。明言されなくても「別離の悲しみ」のようなものは終始映画のなかを流れ続けている。目的に向かって紆余曲折がある映画ではないが、伝わってくるものは確かにある。
レンタカーまで借りて家族総出で長男のお見送りをする過程はおもに会話と歌で描かれる。移動中の車内、途中休憩の場所、組織がいるらしい村、などの場面の展開はあるが、カメラはほぼ固定していて、さほど激しくない動きをじっと撮る。人物たちはじっとこちらを(観客を)見つめる時間がながくなる。「言いたいことはわかるでしょ」と言っているような表情。ほのめかし?検閲の厳しいいイランの映画であることを無言の大声で訴えているような映画。

文字読み