「そもそも論を見つめ直せ」マイスモールランド シューテツさんの映画レビュー(感想・評価)
そもそも論を見つめ直せ
2022年度キネ旬ベスト13位
本作は公開時凄く見たかったのですが見逃してしまい、その後レンタルでも見つからず中々見ることが出来なかったのですが、やっとNetflixで配信されていたを見つけて直ぐに鑑賞しました。
しかし鑑賞できたのは嬉しいのですが、内容は予想していた通り今の日本社会にとって難し過ぎる問題を扱っている作品なので、感想も簡単には書けそうにもない作品でした。
映画って様々な社会にある問題を掬い上げ、多くの人々にその問題を知らしめるという利点はあるのだけど、その問題自体がまだ世界(国、若しくは人類)が解決出来ない問題の場合、観客はある時点で思考停止に陥ってしまう傾向にあります。
本作の場合も「フィクションとしてどのような結末にするのだろう?」と鑑賞途中からずっと思っていましたが、一個人にとっては問題が大き過ぎてモヤモヤとした気持ちが残るのは仕方ありませんし、スッキリとしたラストになる筈もない題材ではありました。
作中でのコンビニの店長や学校の教師やアパートの大家さんや難民の手助けをする弁護士さん等々の対応にも、何かもどかしさも感じつつ彼らも我々観客と同じ一市民であり、基本的に彼等も無力な存在でしかないのであって、憤りを感じるのは結果的に国の制度になってしまうのです。しかしこれも個別の問題全てに対応することなど不可能であり、現実に起きている災難や不幸に対しては結局無力であるのは同じです。
本作はノンフィクションではありませんが、この様な作品を作ったということ自体、本作のサンプル的な家族が存在するのは間違いないのでしょう。
そして「現実に起こり得る悲劇に対して、無力で何も出来ないとして切り捨てるのは違うだろう」と、観客に感じさせる事が最も重要であり本作の存在の意味だと思いました。
私を知る方々は私が政治嫌いという事はご存知なのですが、その理由として今の政治には「そもそも論」が無い(見えない)という事も、時々喋っています。その私が言う「そもそも論」という意味を、本作で例えれば分かりやすいのかも知れません。
本作での難民に対する役所の対応は正に日本の法律というか決まり事なのでしょう。
で、本作の家族が法律に従えば常識で考えて日本では生きていけないことは明白であり、この非人道的な処置を行っているという事も、法を定めた側は当然分かっているにも関わらず、それを執行する政治に対して私は「そもそも論」が無いと言っているのです。
早い話“人道”と“規則”に対して優先順位はどちらを上位にするか?という話なのですが、今の政治は明らかに“規則”を上位にしている様に見えるのが、私の政治嫌いの原因です。
勿論、世の中の人間全てが善人ではないからこその法律であり規則なのですが、そうでないない人達も半分いる訳で、その場合の特例も当然並行して考えなければならないという単純な話なのに、それすら出来ないのが今の世界なのですよ。
なので、こういう作品を見る度に怒りと無力感を同時に感じてしまいます。
作り手側もこの様な解決困難なテーマの物語の結末については当然試行錯誤があった様で、問題提起を一つだけに絞らずを何点かに分散させていた工夫には大いに感心させられました。
一番大きな難民の国の対応問題だけに絞ると悲劇にしかなり様がないので、他に在日外国人二世の親と子の(教育・言語・宗教・文化・アイデンティテイー等)意識格差問題と、思春期の親子関係の問題も絡め(分散させ)、更にジャンルとしても社会派映画としても青春映画としてもどちらでも捉えられる映画にしていたので、あの結末は良し悪しは別にして理解は出来ました。
(まあどちらにしろ、やり場のないモヤモヤ感は残りましたが…)
でも、今月見た旧作の『幸福』然り『修道女』『ジーザス・クライスト・スーパースター』然り、人類共通の解決できない事柄の中にこそ“人間”という生き物の真実が潜んでいるのでしょうね。
※もう何回目か忘れましたが、ログアウト状態となり再びログインすることが毎回出来ず、以前に書いた何百本以上のレビューが全て私の手元から消えてしまいました。(機械音痴の年寄りなので復活できません)
このレビューからまたゼロからの出直しです。