「日本の今の映画…タイトルの輪郭が示す彼女の小さな世界の果てに」マイスモールランド たいよーさんさんの映画レビュー(感想・評価)
日本の今の映画…タイトルの輪郭が示す彼女の小さな世界の果てに
出された提示にいくつ答えを出せるだろうか。現実を問いただす訳でも、希望が見つかる訳でもない。ただ、現実を静かに受け止める。これは紛れもない、日本の映画だ。
入管の問題。実態が明らかになり始めた時から聞くようになったこの言葉。しかし、それよりもずっと前から、彼らの日常に在る話だったことは容易に想像がつく。そんな当事者と日本人の視点を組み込みながら、丁寧に綴った良作がここに。創作物としての明度を落とし、淡々と起きている“今”を向き合っていく。
本作は是枝裕和監督率いる「分福」の気鋭、川和田恵真監督の商業デビュー作品。静かに、静かに見守っていく。就労ビザの問題だけでなく、そこに関わる人たちの姿と、無力な現実。そして、日本にもはびこる今を抽出。複雑性を大切にする是枝監督イズムを感じつつ、エンドロールが終わった先、我々の感じたモノまでを繋げようと試みている。単純な善悪ではない、変化の様々な可能性を描いている。それこそが、映画の持つエネルギーだろう。
主演は嵐莉菜さん。5つのルーツを持った多感な18歳は、きっとこれまでも色々なモノを咀嚼し、見えている世界を問い続けてきたのだろう。純たる人には見えぬ世界を見て、我々に提示をしてくれた、素晴らしき女優さんだ。また、クルド人をよく分かっていない視点を優しく導いてくれた奥平大兼さんも見事。駆り立てられる想いと対比するような無力さを感じるし、その中で力になれることは何かを考えさせてれる。一緒に迷い、答えなき問いのハードルを下げてくれた彼に頼りがいも覚えた。
不思議なもので、不平等が生じている現代の難民申請問題。ミャンマーのサッカー選手、ウクライナの方は受け入れ、その他の国の方には事務的な対応をしているように感じる。無知が故の主観だ。しかし、それはきっと、日本国民も含め異国の実態を知らないからなのではないか。この作品が、解消の劇薬になるとは思わない。だが、考えることで少しでも良い方向に進めるのではないかと思う。全ての人に、光あれ。