「わが国の「やりざま」」マイスモールランド TWDeraさんの映画レビュー(感想・評価)
わが国の「やりざま」
まずは今作が商業映画デビューである川和田恵真監督。
早稲田大学在学中に制作した映画『circle』が、東京学生映画祭で準グランプリを受賞。その後、2014年に「分福」に所属し、是枝監督の『三度目の殺人(17)』で監督助手、西川美和監督の『すばらしき世界(21)』でメイキングを担当するなど、多くの現場で研鑽を積んできています。
そんな川和田監督がデビュー作で取り上げたテーマは「残留資格を失う在日クルド家族の物語」。ちなみに、同じ問題については2020年公開の『風の電話』でも扱われています。
まず、彼らが「残留資格を失う」ということは「県外への移動」や「就労」が許されません。そして、それを破ったことが発覚すれば「期限なく収監」されるか、或いは「帰国」を強いられます。しかし、彼らは元々弾圧を逃れてきた難民です。帰国すれば即座に逮捕、またはそれ以上のことをされる可能性が高いのです。これは、そのことを知りつつも手を差し伸べることのない、わが国の「やりざま」であり、多くの日本人が知らないでいる「現実」なのです。
まさに社会的なテーマですが、川和田監督はこれを単に道徳的、または欺瞞的に述べたり、或いは「必要以上に振りかぶった悪意」を使って涙を誘うような「安易な脚本」にはしていません。例えばそれは、友達の「ドイツ」いじりや、また年配の女性に全く悪意ないつもりで言わせる「お国にはいつ帰るの」という問い、そして「ガイジン」という呼び方など、ちりのように積もる日常の「小さな悪意」の連続から、いずれは、うまくいかない現状の全てに対し、主人公の少女に「いかにも日本語的」な「しょうがない」と言う言葉で諦めさせる「居た堪れなさ」があります。
まさにこういった表現方法に、師匠である是枝イズムを感じたり、また、そこに辛さだけでなく「ユーモアや優しさ」を散りばめる部分に西川さんの作品にも通じる部分を感じます。
そして役者陣。
物語の中心であるクルド人少女を演じる嵐莉菜さん。その家族(父、妹、弟)役に嵐さんの実の家族(パパ、最高)。また、親しくなる友人に『MOTHER マザー(20)』の奥平大兼さん。さらに彼女たちを取り囲むように平泉成さん、池脇千鶴さん、藤井隆さん他、芸達者たちが配役されていて付け入るスキがありません。
さらにはクルド監修に携わったワッカス・チョーラクさん。
十条で日本初で唯一のクルド料理レストランのオーナーをされ、普段からクルド文化の認知度向上のためのガイドとして取り組んでおられます。今回、当事者であるクルド人の方について、(エキストラ以外の)メインキャストとしては「出演することで不利益が出る可能性がある」と言うことで配役されていませんが、制作サイドにワッカスさんのような当事者がいることで、物語上都合の良い嘘がない安心感があることも重要な点です。