劇場公開日 2022年5月6日

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「未来を選択できる自由」マイスモールランド shironさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0未来を選択できる自由

2022年5月7日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:試写会

大切なことは全て映画から教わってきました。
日本の難民申請制度には驚くばかり。ウクライナの人々を受け入れている今、見ておくべき映画です。
主人公サーリャを通して、どちらのコミュニティにも属せない孤立感、制度に対する矛盾、夢に向かうことも許されない現実への葛藤が描かれます。
全ての子供たちに未来を選択できる自由を!そう願わずにはいられません。

上映後に川和田恵真監督と、クルド文化の監修や翻訳だけでなく作品に深く関わってこられたワッカスさんとの貴重なトークを聞けたので、そこで得た情報も交えてレビューします。
一人でも多くの方に見ていただけると嬉しいです。

ちなみに、ロシアによるウクライナ侵攻で日本に逃れてきた方々は“避難民”で“難民”とは別枠です。
自国にいると命が危ないという意味合いでは同じ立場だと思うのですが、政治や文化的な問題で自国に居られなくなった人の場合、日本が“難民”として迎え入れることでその国と日本との関係性が悪くなることを危惧して難民認定が難しい面もあるようでした。
クルド人が申請をして難民と認定される確率は他国で40%ほど。日本では今のところ0%だそうです。
そして、たとえ特別在留難民になれたとしてもビザは発行されない。
この映画で初めて仮滞在許可について知ったのですが、生活に制限をかける時点で個人の自由を奪っているわけで…。これって人権の侵害にあたるのでは?と感じます。
日本国憲法で定められている基本的人権の尊重は日本国民以外には適応されないってこと??
なかなか一筋縄ではいかない大人たちの問題が浮き彫りになりますが
では、親に連れられてきた子供達は??

『タヌキ計画』でも、在日ベトナム人の主人公たちが故郷の風景に似ている場所に行くシーンがありました。
原風景だと感じる場所が心の故郷だとすると、自国の風景の記憶が無いサーリャ達にとっては日本の景色が原風景になるのではないでしょうか?

この映画ドキュメンタリーだったっけ?と勘違いするようなファーストシーン。
私にとってはあまり馴染みの無いクルドの文化ですが、舞台となる埼玉県川口市は東京との県境で、蕨駅周辺にはクルドの方が多いらしく蕨スタンと呼ばれているそうです。
きっとクルドの方々のコミュニティがいくつもあるのでしょうね。
そんな「クルド人としてのアイデンティティを保ちながら日本で生きる」にも落とし穴があって
“結婚相手は親が決める”なんて、封建的で時代錯誤に感じるけれど、クルド文化ではまだまだ根強く残っている。
現代の日本で生きるサーリャにとって、クルドの文化を守りながらも封建的な部分は受け入れられない。
=子供たちが未来を選択できる自由=

アカデミー作品賞に輝いた『コーダあいのうた』は、耳の聴こえない親から生まれた耳の聴こえる子どもコーダ(CODA:Children Of Deaf Adults)が二つのコミュニティの間で家族の通訳者としての役割を背負っている問題にも言及していましたが、サーリャも日本語が出来ないクルド人の仲間の通訳者として頼られている。
ヤングケアラー問題も同じで、助け合うことは大切だけれども、その負荷が大きすぎるのには問題がある。
=子供たちが未来を選択できる自由=

そしてトドメに日本政府からの制限。
そんなの実際、生活できませんて。
未来への希望も絶たれ、生活の為に犠牲になる。
一貫して、子供たちが未来を選択できる自由について描いている気がしました。

いつの日か、どちらのコミュニティも属せなかった辛い経験が両方のコミュニティを繋ぐ存在となるような…
サーリャの真っ直ぐな視線の先には、そんな選択肢も含まれる未来があるかもしれないと思えました。

ドキッとするセリフに、グサッとくるエピソードの数々。
嵐莉菜ちゃんの瑞々しい演技が素晴らしい。
しっかり心が動く時間をとってからセリフに繋げる丁寧な演出で、サーリャの心の機微に寄り添えます。
監督から役者へ一方的に役の感情を押し付けることの無いよう、撮影の2〜3ヶ月前からワークショップを開いて準備したそうです。
役者同士がシーンについて考えたり、それぞれの感情を確認し合ったり。
嵐さんが実際に体験したエピソードも脚本に盛り込まれているそうです。
日本人が悪気なく発した言葉にこんなにも傷つき、どちらにも属せない孤立を深めていたのかと、無自覚だった自分に気づかされました。

追記
キャスティングについては、当初クルドの方を考えていたそうですが、難民申請中に出演していだだくのはご本人の将来に影響を及ぼすかもしれない為、断念してミックスルーツの方をオーディションしたそうです。
嵐さんの実際のご家族が家族役で共演されていますが、それぞれの役のオーディションを勝ち抜いて決まったそうですよ。

shiron