劇場公開日 2022年5月6日

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「主人公の横顔に滲む刹那が胸に突き刺さる、国境のメタファーである荒川に寄り添うようにして暮らす家族の物語」マイスモールランド よねさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0主人公の横顔に滲む刹那が胸に突き刺さる、国境のメタファーである荒川に寄り添うようにして暮らす家族の物語

2022年5月7日
iPhoneアプリから投稿

祖国を追われた父に連れられ幼い頃に妹と弟と一緒に日本にやってきたサーリャ。高校生となったサーリャは友人にも恵まれごく普通の高校生活を謳歌していたが、父親の難民申請が認定されず一家全員の在留許可が剥奪されてしまったことから少しずつ生活が色褪せていく。

小学校の先生になりたいという夢を追い、父親に内緒で部活も辞めてコンビニのバイト代をせっせと貯金するサーリャがバイト仲間で美大進学を目指す聡太とデートするのは荒川の河川敷。在留資格を奪われたサーリャ達は許可なく県境を越えることを禁じられているので彼らにとって荒川は国境そのもの。東京に住む颯太と河原で語り合ったり、幾度となく橋を渡ったりするというごく普通の行為も許されない理不尽に心が折れそうになるサーリャも、彼女を何とか支えようとする聡太も、彼女達に手を差し伸べようとする優しい人達も誰もが余りにも非力。そんな絶望が残した傷に塩を擦り込むような無慈悲で下品な大人達。

在日クルド人の家族の物語でありながらそこに横たわっているテーマは普遍的なもの、当たり前のように享受していた自由がいとも簡単に奪われる残酷な世界に今我々が住んでいることを突きつけられる重厚な作品。主演の嵐莉菜が見せる刹那がグサリと胸に刺さって抜けません。

よね