「【時代の転換点とともに/クールとパッションのはざま】」ジェームズ・ボンドとして ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)
【時代の転換点とともに/クールとパッションのはざま】
ダニエル・クレイグのジェームズ・ボンドは、時代の転換点とともにあったように思う。
ソ連が崩壊し、米国一強の時代が来るのかと思ったが、イスラム世界の台頭と、大規模テロで世界は混沌とし、ネットの広がりは、様々な社会システム・アプローチに変革を迫ると同時に、サイバー攻撃や、瞬く間に広がるデマに一役も買った。
そして、中国の台頭と、ふたたび世界を混沌とさせようとするロシア、金融危機による世界の混乱、民族主義を中心にしたポピュリズムの広がりと、イギリスのEU離脱、トランプの登場。
ダニエル・クレイグのジェームズ・ボンド作品は、こうした社会の変化を背景にしながら、従来のスパイ組織の在り方・考え方に踏み込むと同時に、スパイが人によって行われる限りは、単純明快で勧善懲悪なストーリーだけではなく、人物や因縁も描かなくてはならないという姿勢が、シリーズを通して貫かれていたような気がする。
僕が「カジノ・ロワイヤル」のレビューで名場面として書いた、ボンドがヴェスパーの指を舐める場面と、「スカイフォール」で描かれたロンドン・ナショナル・ギャラリーのターナー作「戦艦テレメール号」の前でのQとの邂逅の場面が、この「ジェームズ・ボンドとして」で重要な場面として取り上げられていたのは、ちょっと気分が良かった。
従来の007シリーズの決めゼリフに対するアプローチを変えたという件も、ほらレビューで書いた通りだと思って、これも気分が良かった。
このドキュメンタリー作品の冒頭、ダニエル・クレイグは、当初はクールな役が嫌だったと言っていた。
ロジャー・ムーアやピアーズ・ブロスナンは、ジェームズ・ボンドの前からクールな役をやっていたが、自分はそうではなかったからだと。
でも、決意としては、絶対にやってみせると心に誓っていたとも。
結果、ダニエル・クレイグはジェームズ・ボンドだったし、ジェームズ・ボンドはダニエル・クレイグだったと強く思う。
一度は、「スペクター」が辞め時と考えていたようだが、「No Time To Die」はダニエル・クレイグのジェームズ・ボンドの締めくくりにふさわしい作品だったように思う。
ダニエル・クレイグのジェームズ・ボンドは、時代の転換点とともにあり、そして、クールとパッションのはざまにもあったように思うのだ。