「グロテスクショー・マン」ナイトメア・アリー かなり悪いオヤジさんの映画レビュー(感想・評価)
グロテスクショー・マン
ウィリアム・リンゼイ・グリシャムの同名小説を原作としたB級スリラー『悪魔の行く街』のリメイク作品だそうだ。(ドメバイで母親を死に追いやった?)父親殺しの過去がある主人公スタンを演じるのは、メンヘラ演技には定評のあるブラッドリー・クーパー。今回は“被り物”なしの人間中心ドラマということでデル・トロらしくない作品なのだが、前半舞台になっているカーニバル一座には見世物になっている“獣人”なんかもいて、それなりの怪奇色は保たれている。
そのカーニバルの出し物の一つ“読心術”をピート&ジーナ(トニ・コレット)夫妻から学んだスタンは、電流ショーをしていた若い女モリー(ルーニー・マーラ)と組んで、金持ち相手のショーを企画しこれが大当り。そこで知り合った精神内科医リリス(ケイト・ブランシェット)から大富豪の患者を紹介してもらい、さらなる成功を目指すスタン。が、インチキがすっかりバレてしまい、大富豪をその手で殺めてしまうのだ。
ミイラ取りがミイラになる結末は想定内の範囲なのだが、ケイト演じるリリスならびに大富豪の死んだ妻ドリーの傷について、少し触れておかなければならないだろう。“若い女を傷つける性癖”があった大富豪は、元妻ドリーのみならず若きリリスにも手を出していたのではないだろうか。リリスの胸の傷跡はその証拠ともいえるだろう。ゆえにリリスは(お金のためではなく)復讐のため精神分析技術を使ってスタンを大富豪殺害へと導いたのではないだろうか。
某評論家の方がホルマリン漬けの“男の子”エノクは元妻ドリーのお腹の中で死んだ赤ん坊であると指摘していたが、エンドクレジットで意味深に映し出されていたエノクは、その千里眼によって人の未来や過去を見透せる能力の持主。いわば読心術を駆使するスタンの分身といってもいいだろう。つまり、父の暴力によって命を落とした赤子の霊が、カーニバルの座員やリリスを使って、そのリベンジを同じような境遇の男にはたさせた、スピリチュアルスリラーとしても読み取れるのである。
「映画では、この男が残酷な父親に潰されたことにしました。僕の意見だけれど、人間は子どもの頃に潰されてしまうものだと思うんです。そして生きていくためには、うまく物語を作ったり、人の心を読んだりしないといけません。ちょうど、「金継ぎ」のように。割れてしまったものを継がないと、壊れたままになってしまうからです。」とインタビューにこたえていたデル・トロ。エノクの割れた頭部に施されていた縫合跡は、最早修復不可能なほどにまで壊れてしまった親子関係のメタファーだったのかもしれない。