劇場公開日 2022年1月7日

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「岩井俊二監督の「Love Letter」に着想を得、韓国人監督が小樽でロケした珠玉作」ユンヒへ 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0岩井俊二監督の「Love Letter」に着想を得、韓国人監督が小樽でロケした珠玉作

2022年1月31日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

悲しい

幸せ

未鑑賞の方に、物語の中で明かされる“秘密”に触れることなく魅力を伝えるのが難しい映画だ。実は予告編でも当サイトの解説でも、人間関係をめぐる“ある要素”が明示されているのだが、個人的には、その要素を知らずに観るほうが新鮮な驚きや気づきを得られてベターだと思う。とはいえ、その要素を苦手とする人が知らずに観て後悔する可能性もなくはないので、単純な正解はないのだろうけど……。

監督は韓国で1986年に生まれ、2016年に長編デビューしたイム・デヒョン。中年女性を主要人物とするストーリーを出発点として脚本に着手し、のちに岩井俊二監督作「Love Letter」が好きな友人に誘われて小樽を訪れたことで、冬の小樽をロケ地にすると決めたという。

小樽で老母と暮らす友人ジュン(中村優子)から、韓国で暮らすシングルマザーのユンヒ(キム・ヒエ)に一通の手紙が届く。手紙を盗み見た高校生の娘セボム(キム・ソヘ)は、知らなかった母の一面に触れ、母と一緒に小樽を訪れることを思い立つ――。

私信を第三者が読んでしまうことから、長年止まっていた人間関係が再び動き出す構造は、「Love Letter」はもちろん、同作への“返信”として岩井監督が手がけた「ラストレター」(および同じ原作を中国人キャストで撮った「チィファの手紙」)とも共通する。ついでながら、最近の映画では濱口竜介監督によるオムニバス作品「偶然と想像」の第3編「もう一度」と、描かれた状況に似た部分がある。

大まかなくくりでは女性映画と呼ぶことができるだろうが、もちろん男性観客が観ても感動したり学べたりする点は確かにある。さらには、本作で言及される特別な関係を、普遍的な人と人との関係性に置き換えて考えることもできるはず。伝える勇気と、受け止めようとする心が、たとえ少しずつでも広がっていき、生きやすい世の中になることを願うし、「ユンヒへ」のような映画がきっとその助けになると信じる。

高森 郁哉