「こちらの並行世界はハートフルなラブストーリー」僕が愛したすべての君へ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
こちらの並行世界はハートフルなラブストーリー
『君を愛したひとりの僕へ』と2作同時公開が話題になったアニメーション。
直接的な続編ではなく、どちらを先に見るかで結末が変わるという何か“仕掛け”が。
『イニシエーション・ラブ』みたいなトリッキーなどんでん返しと思いきや、これ、今流行りの“アレ”じゃん!
両親が離婚し、母親に引き取られた暦。祖父母のお屋敷のような広い家で暮らす。
やがて祖父が死去。その直前、祖父と喧嘩をしてしまい、後悔が残り…。
そんな暦に不思議な現象が。全く同じだけど、何処か違う…。そこは、父に引き取られ、祖父が死んでいない“別世界”だった…。
本作は“パラレル・ワールド”。厳密にパラレル・ワールドとマルチバースは似て非なるが、“もし、あの時…”とか“別の世界の別の自分”とか、概要はほぼ同等。
母に引き取られた本作と父に引き取られた『君を愛したひとりの僕へ』の、2つのパラレル・ワールドを2作で展開するというユニークな試み。
両作共リンクしており、『君を愛したひとりの僕へ』に繋がるであろうシーンや伏線も。
それは両作見た時に触れるとして、本作は本作としての感想を。
このパラレル・ワールドは“並行世界”と呼ばれ、存在がある程度知られている。
暦の父も並行世界を研究する機関に勤めており、後々それを個人で認知する機器も。(腕時計みたいなアイテム)
なので、「ここは何処!?」みたいなよくあるリアクションではなく、暦も初めて並行世界に行った時、冷静に把握。
それが暦の初めての並行世界体験。再び並行世界と交わる時が…。
高校生となり、成績はトップの優等生だが、それ故いつも独り…。
そんなある日突然、同じく優等生の女子、和音が声を掛けてくる。しかも、「暦」と呼び捨てで。
びっくり戸惑うが、彼女は“85の並行世界”から来た別の和音。その世界では暦と和音は恋人同士らしい。
以来、和音の事が気になり始める暦。ちゃんと元の世界に戻れたか、いやそれ以上としても。
ある時声を掛けてみたら、この世界の和音…と思いきや、思わぬ事実。
いつしか暦は和音に惹かれ、何度もアタックするも…。
メインはボーイ・ミーツ・ガール・ラブストーリー。
平凡な男子とクールな女子。
なかなか成就しない。
高校~大学~就職も同じ。就職先は暦の父が勤めるパラレル・ワールドの研究機関。
若い頭脳がぶつかり合い、切磋琢磨して画期的な成果も上げる。
そんな時、遂にやっと付き合う事に。
仕事もプライベートも順調。
やがて結婚。息子も産まれる。
幸せで穏やかな日々が続いていたある日、事件と再び平行世界が…。
家族で見に行った花火。
その会場で、一人の男がナイフを振り回して暴れる。
あわや息子に魔の手が掛かろうとした時、暦が守る。
惨事は免れたが、以来和音が息子を外出させないなど神経質に。
事件のショック…と思われたが、パラレル・ワールドのイレギュラーが絡む。
息子を連れて姿を消した和音。
居所を突き止めた暦は…。
今目の前にいる和音は、並行世界の和音。
その世界では、あの事件で息子は亡くなり…。
それを受け入れられず、息子を連れ去ろうともしていた和音だが、息子からの言葉と自らの過ちを認める。
並行世界の和音は自分の世界へ帰る。
その世界で罪に問われ、息子をも亡くし…。
あの時違っていれば、自分たちがそうなっていたかもしれない。
誰が責められようか。
彼らは自分たちなのだ。
息子も成人し結婚し、孫も産まれる。
老境に。暦に余命が告げられる。
そんな人生最後を前にしたある日…
謎のシグナル。また平行世界か…?
シグナルが示す場所へ赴く暦。
そこで出会ったのは…
暦と和音の人生とラブストーリーを主軸に、パラレル・ワールドが幾度も交差する。
それがなかなか鮮やかだったり、なかなか複雑だったり。
個人的には、『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』よりこちらの方が頭を使った。
でも、ハートフルな物語だ。
終盤の老暦の台詞。タイトルそのものを代弁。
並行世界の和音の手紙。
交差点の謎の少女。
出会った初老の女性。
あちら(『君を愛したひとりの僕へ』)ではどんな運命が待ち受けているのか…?