「過激なブラックコメディというよりも、むしろ現実の世界情勢をソフトに描いたんじゃないかと思えてくるような一作。」ドント・ルック・アップ yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
過激なブラックコメディというよりも、むしろ現実の世界情勢をソフトに描いたんじゃないかと思えてくるような一作。
レオナルド・ディカプリオとジェニファー・チャスティン、さらにメリル・ストリープを含め数え切れないほどの第一線俳優を起用した本作。地球に破滅をもたらす彗星の接近を前にして人類が繰り広げる騒動の顛末は、破滅的な危機に対してフェイクニュースが横行し、人々は問題から目をそらせるために別のアクティビティに熱中していく…、という現実社会の実情を反映した、というか昨今の世界情勢を踏まえると、本作が描く架空の物語の方がマイルドなんじゃないか、と思わされます。
こうした「クライシス物」の定番演出として、ニュースクリップを畳みかけるように挿入していく、という手法がありますが、本作はむしろ、そのニュース映像の背後で何が起こっているのかにかなりエネルギーを割いて、ニュースが、そして世論がどのように形作られているのかを描くことに重点を置いている点が興味深いです。
小銭稼ぎにいそしむ高級軍人など、アダム・マッケイ監督による毒はあるが軽妙な人物描写が多いため、ついつい本作の宇宙物理学的な描き方についても誇張や非現実性のある要素が含まれているんだろうな、と考えがちですが、現役の物理学者のコメントによると、結末近くの”ある描写”を除いては、かなり実際の物理学や天文学の知見を反映しているとのこと。決して表向きの「軽さ」で作られた物語じゃないんですね。
ディカプリオ演じる主人公をはじめ、登場人物の誰もが完璧な人間ではなく、「弱さ」を持っているけど、それを悔い改めたり因果応報になったりしないところに、妙なすがすがしさを感じる作品です。
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