「二人が選んだ道の尊さ」フタリノセカイ よしえさんの映画レビュー(感想・評価)
二人が選んだ道の尊さ
自らもFtMの監督によって描かれるトランスジェンダーの物語。MtFを主人公に据えた映画は多いが、FtMが題材に採られるのは珍しいのではないか。劇中、真也が乳房を露わにするシーンが何度かあるが、大変自然な作りでどうやって撮影したのか知りたくなった。
埋没して生活しているトランスジェンダーにとって、事実を明かしていないパートナーにいつどうやってカミングアウトをするのかはデリケートで難しい問題である。今作ではそれが意図しない形で伝わってしまい破局の原因となるが、ではどうすればよかったのかとなるとケースバイケースでもあり、絶対の正解はない。
一方でシスジェンダーでヘテロセクシャルの結にとっては、隠し事をされていたことももちろんだが、自分は同性愛者ではないという思いがあるから、簡単に真也を受け入れられない気持ちもよく理解できる。最終的にはシスだのトランスだの、ホモだのヘテロだのは関係ない、個人である相手のことが好きなのだとなるにせよ、いきなり現実を突きつけられて抵抗感があるのは無理のない話だ。だからこそ、後半に二人が改めて惹かれあう展開が感動を呼ぶのだ。
物語は後半意外な展開となり、俊平が二人にとって重要な存在となりつつ、最後は思ってもみないところに着地をする。「フタリノセカイ」を成就するために真也と結が選んだ道は驚きの連続であり、特に着地点は予想だにしなかった。一度見てほしい。二人が選んだ道に尊さを覚えるのはわたしだけではないはずだ。
なお、作品は行間を読む力を必要とする点の描写の連続であり、うっかりすると筋が追えなくなるかもしれない。いくつかの重要なポイントがあえて描かれなかった理由は、言葉にするのは難しいがなんとなく分かる気はする。抑制の効いた描写には好感が持てるし、この物語が如何に扱いの難しいテーマに取り組んだかということでもあろう。昨今同様なテーマの作品が増えてきた中、この映画が多くの人に観られてほしいと願う。良い映画だった。