「脚本と演出がとにかく秀逸」ウェディング・ハイ 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
脚本と演出がとにかく秀逸
本作品はバカリズムの脚本と大九明子監督の演出がとにかく秀逸。主演の篠原涼子をはじめ、役者陣は概ね好演。特にひっかかるところもなく、全体にスムーズな流れである。コメディはあくまでも平凡で常識的なモデルがベースだから、このスムーズさには相当の苦労が窺える。
岩田剛典と向井理のくだりは要らなかった気がする。披露宴だけで十分に面白かった。流石はバカリズムの脚本だ。笑いを取ろうとする人の心理が事細かに描かれる。高橋克実のシーンが一番ケッサクだった。
結婚式でスピーチや余興を頼まれたら、誰でも内容をどうしようか考える。一生懸命になってしまう気持ちはよく分かる。
当方も一度結婚式のスピーチを頼まれたことがあって、考えた末に自作の短い童話を披露した。拍手はもらったものの、あまり受けていないことは空気でわかった。もっと普通のスピーチにすればよかったのかもしれないとも思った。しかし数年経ってその結婚式の出席者の一人に会ったら、当方のスピーチを覚えていてくれた。
当方も、覚えている他人の言葉はたくさんあるが、そのときにほぼ無反応だったことを思い出す。印象に残る言葉を受け取ったときは、思い切り拍手したり頷いたりする場合と、無反応の場合がある。反応したときは、自分が反応したことの方を覚えていて、相手の言葉の内容を思い出せないことがある。自分が無反応だったときのほうが、相手の言葉の内容をよく覚えていることが多い。多分であるが、心の中で反芻しているから無反応になるのだと思う。
だから会話で相手に頷かれたり感心されたりされなくても、安心していい。大仰に頷いたり賛同したりするのは、言葉が相手の心に届いていない場合が多い。ほぼ社交辞令なのだ。
そんなふうに考えるようになってからは、人との会話が楽になった。相手の反応を気にしないから、自分をよく見せようとしたり、言葉を飾ったりしない。虚心坦懐に話すことが一番で、こちらにとっても相手にとっても楽なのである。ノンバーバルコミュニケーションに配慮すればいい。
本作品では片桐はいりが演じた先生のスピーチがそれに当たる。鑑賞した誰もが彼女の言葉を覚えているとおもう。「蛍の光」の2番の歌詞のように、万感の思いをこめたひと言は、千の言葉を並べるよりもずっと心に残るものなのだ。