「ひりつき、心を抉られるハードボイルド」カード・カウンター bionさんの映画レビュー(感想・評価)
ひりつき、心を抉られるハードボイルド
ギャンブルに生きる男の物語と思わせて、とんでもないハードボイルドの世界を味合うことになる。
クライマックスが近づき、安堵の気持ちに傾きかけた観客に向かって放たれるとんでもない仕掛け。それまで、ポーカーフェイスを通してきたオスカー・アイザックの表情がほんの少し揺らぐ。その決意が向かうところは果たして。
ぴっちりと分け目をつけて寸分の隙もない髪型とスーツでカジノに臨むウィリアム・テル。ウィリアム・テルという名前自体が運命を予期させるが、買っても負けても眉ひとつ動かさないオスカー・アイザックを見ていると、運命がどう転んでも受け入れる覚悟があるように感じる。
ウィリアムはモーテルの部屋に入るなり、机、椅子、机や椅子の脚まで白い布で覆う。彼の病的な潔癖症は、真っ白な空間で自分の心を平安な状態に置くことが目的なのか。または、邪悪な気持ちが入り込まないように白で防御しているかもしれない。
ポーカーの勝負シーンは、見応えがある。手札を見て勝負を決めるプレイヤーの攻防は、自分の手汗が出てしまうくらいひりつく。
ポーカーは基礎知識しかないが、カウンティングは麻雀でも効果的だから、このテクニックが有効なのはよくわかる。欠点は、ゲームを楽しめないこと。
幻想的なイルミネーションの中を2人が歩く。多幸感に包まれるこのシーンで終われば、それはそれで一つの物語になったと思う。
ハードボイルドは、苦くて辛いもの。そんなことを思い知らされた。
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