「観終わった後の余韻がすごい」パワー・オブ・ザ・ドッグ Ranさんの映画レビュー(感想・評価)
観終わった後の余韻がすごい
観終わった後に、あれはどういうことだったんだろうか?これはこういうことだったのか、いやこういう解釈もありえるな、など、再度最初から最後まで伏線を追い色々な解釈が頭を巡る、そういう作品が大好きだ。本作は、そういった意味で鑑賞後もしばらく作品の余韻にどっぷり浸って抜け出せない(いい意味で)。おかげで昨夜はあまりよく眠れなかった。
ベネディクト・カンバーバッチ演じるフィルは、その言動から誰がどう見ても男臭い粗野で野蛮な生粋のカウボーイ。実家の牧場経営に生涯を捧げるこの田舎のカウボーイは、実はイエール大卒の秀才でもある。弟ジョージの妻ローズに憎悪とも嫉妬ともいえる複雑な感情をあらわにし、ローズの連れ子ピーターとの間で少しずつ発展する関係のなかで、徐々にフィルのもう一つの面が姿を現してくる。威圧的な外面、精緻な頭脳、誰にも見せていない内面。複雑なこの人物、ものすごい難しい役のはずだが、カンバーバッチが流石すぎる演技で圧倒してくれた。本当に素晴らしい役者。
そして、ピーター役のコディ・スミット=マクフィーが、これまた引けを取らない演技を見せてくれている。登場はヒョロヒョロで弱々しい印象だが、実は彼の亡き父が言ったように「強すぎる」魂を秘めていた。そしてこの物語の最後をがっつりもっていくわけだが、ラストシーンの彼の微笑とともに冒頭のナレーションが頭をよぎり、ああやはり彼は強かったのだ、となんとも言えない感情に浸りながらこの作品を観終えた。ピーターが一本の煙草をフィルと分け合い吸っているときの妖艶な表情が忘れられない。
未だに不思議なのは、ピーターが目的を果たせた過程に、いくつかの偶然が重なっていた
ようにみえたこと。この偶然が無ければ、そもそもどうやって目的を果たそうと考えていたのだろうか?それとも、偶然ではなくピーターの策略で起きたものだったのだろうか(でもどうやって)?わからない、、、でもわからないから、面白い。
久しぶりに素晴らしいヒューマンドラマに出会うことが出来た。