劇場公開日 2021年11月19日

「滑り込みで観たけど、作品書受賞しなかったなあ」パワー・オブ・ザ・ドッグ CBさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5滑り込みで観たけど、作品書受賞しなかったなあ

2022年6月16日
PCから投稿

アカデミー賞作品賞最有力候補と聞き、受賞して込んでしまう前にと滑り込みで観た。(作品書は受賞しなかったけれど)
主題を直接語ることはなく、雰囲気を感じ取ってくれという映画。気合を入れないと、「なんだ?この映画」となりかねないヤツ。

主人公は、イエール大で古典を専攻したインテリなのに、父の大牧場を継いだので、いわゆる肉体労働者であるカウボーイたちを率いており、風呂にも入らない、荒くれ者たちに近い生活をしている。態度もぶっきらぼう。マッチョでありたいという思い、あるいはこの立場はマッチョであるべきという信念か? 弟は兄のようにできる者ではないが、兄と一緒に牧場経営に励んでいる。マッチョでありたい兄にとって弟という存在は、頼りないが守ってやらなければいけない存在なのだろう。その弟が、宿屋の女主人、離婚歴があり子持ちの女性と結婚して、流れはかわっていく、という話。主人公は、弟が結婚したことも100%納得できないし、結婚相手の息子ピーターの柔らかな物腰も気に入らない(主人公にとっては「男らしくないヤツ」)。しかしふとしたきっかけから、主人公とピーターは仲良くなっていく。だがしかし・・・

まずはやはり多くの方が語っている、マッチョの話なのだろう。

主人公「男を強くするのは苦境と忍耐だ」
ピーター「ぼくの父は、強くするのは障害物だと言った。そしてそれを取り除けと」
主人公「お前には障害物がある。お前の母親だ。母親はぐでんぐでんだ」
このやりとりは、最後まで観ると思わすこの部分を思い出すかと思います。

そして俺がこの話を観てもうひとつイメージしたものは「依存」。主人公は、明らかに弟に依存している。だから同じベッドに寝るし、弟が結婚することがなんだか気に入らない。兄としてはずっとかまって守っていたつもりなのに、弟はずっとひとりだった。主人公は弟を支配していたかっただけだったのだろうか。

主人公が崇拝している、主人公が子供の頃、いろいろなことを教えてくれ、荒れた天候の中で裸で彼を温めてくれたたマッチョな、ブロンコ・ヘンリーという存在。
主人公「ブロンコ・ヘンリーは目を使うことも教えてくれた。あの山になにが見えるか、わかるか?」
ピーター「ほえてる犬。最初に来た時に見えた」
主人公「すぐに、見えただって?」
このやりとりがふたりの仲が変化するきっかけ。誰も自分と同じように見えてくれない中で、とうとう現れたブロンコと同じものを見られる少年。主人公の保護意欲は、すでに妻帯者となってしまった弟から一気に息子へと。つまり主人公が依存する対象が、弟から息子へ移る。

そしてまた、弟の妻もまた息子ピーターに「依存」している。息子はそんな母親に優しく対応する。
弟も、市長夫婦を牧場に招くことに成功するが、「兄貴がいないと(インテリ相手の)話がもたないから、家にいてくれよ」と懇願する点では兄に依存している面がある。

以下はネタバレなので、観た人だけ読んでください。

腐った動物の死骸に、しばらく漬けられていたかもしれない、炭疽菌漬けかもしれないロープ。
それは息子ピーターのベッドの下に眠り、今後もずっと、人の眼には触れないだろう。
ピーターは、父親が言う通り、自分で障害物を排除し、強くなり自分の道を切り拓いたわけだ。
真にマッチョ、「強い人」であるのは誰なのだろうか、という映画と俺には感じられた。

CB
琥珀糖さんのコメント
2023年1月9日

CBさん
コメントと共感ありがとうございます。
炭疽菌は、フィルが縄を担う水に加えておいたから、
そうなんですか?
やっと分かりました。
乾いた皮をのままではなく、水を加えて綱を担う・・・
医学生で、相当に悪ですね。
ありがとうございます。すっきりしました。

琥珀糖
talismanさんのコメント
2022年7月13日

CBさん、コメントありがとうございます!この映画のピーター役の彼は「エルヴィス」にも出てます(冒頭の方)!相変わらず細くってすぐにわかりました。今後が楽しみ!

talisman