有り、触れた、未来のレビュー・感想・評価
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有りふれた未来が、実は何よりも大切で有難い。手を伸ばせば届くのならば、手を伸ばしましょうよ、と。この作品はそう周りに呼びかけているような気がします。
東日本大震災で被災した人びとを描いた物語。
最初はそう思っていたのですが、どうも
それだけを描いた作品でもないらしい。
これは観てみなければというわけで鑑賞です。
登場する人数が、かなり多い作品です。
その中でも、二つの人(家族)を中心に話が進みます。
メインの主人公は、佐々木愛美(桜庭まなみ)
10年前、交通事故でバンドマンの彼氏を亡くす。
両親は離婚しており、母親は末期ガンらしい。
もう一人の主人公は、里見結莉(碧山さえ)
そしてその父親が、里見健昭(北村有起哉)
10年前の震災で祖父・母・兄の3人を失う。
現在は祖母との3人暮らし。
愛美とその父
一度に3人を失った哀しみから抜け出せずにいる。
父は酒びたり。ほぼアル中。
愛美は友人と一緒の高校へ進学する将来を想うが
愛美からは笑顔が消えたまま。
それぞれに、支えてくれる人がいます。
愛美には結婚予定の男(中学教師)が。
その中学教師は、結莉のクラス担任で
結莉には一緒の進学を目指す友人。
中学3年で進路を決める時期の結莉。
3者面談の日程を決めるよう担任に言われるが
酒びたりの父親に相談する気にもなれない。。
この父親、
震災で家族を亡くした事を悔やみ続けている。
助けられなかった命を悔やみ続ける父の姿は
娘にとって「自分を責める無言の姿勢」に映る。
” 私が死ねば良かった? ”
ついに口にする結莉。
生き残った父と娘。
津波に呑まれ命を落とした母・兄・祖父。
父は、救えなかった命を嘆き哀しみ続ける。
10年の間その姿を見続けた娘。
自分が生き残った事が父を悲しませている と
生きる意味を見失っていく…。 …うーん
” 私が死ねば良かった? ”
父の冷えきった心に灯が灯る。
”違う” ”そうじゃない”
失った命を嘆く余りに
残された者まで暗闇に落としてどうする?
アル中の治療に通い始め
仕事を真面目に勤め出す父。
結莉の氷った心も、静かに解け始める。
そして…
と、まあ こんな感じの展開で
震災で傷ついた者を中心に、
心に傷を抱えた人たちの心情を描いた群像劇です。
傷ついた者たちへの寄り添い方の
なんと優しいこと。 ほっ
観て良かった。
満足です。
◇あれこれ
■真の主人公
ポスター上の文字サイズからしても「桜庭まなみ」
がヒロインだと思っていたのですが、
作品の鑑賞後の感想としては
「里見結莉」 が真実のヒロインに思えます。
(あ、父親の役割もデカいです)
■その里見結莉を演じた「碧山さえ」さん
被災した過去を持つ中3女子の役を
これ以上無いくらい自然に演じてくれました。
現役の中学生との事。宮城県出身。 ほう
他の作品への出演歴は確認できませんでしたが
今後の活躍に期待大です。
■ラスト近くのシーン
和太鼓の連弾のなんと力強い響き。
まさに「命の鼓動」。
前を向けと、力をもらった気がします。
◇最後に
エンディング。
自転車を漕いで友と一緒に高校に通う結莉。
一度は諦めた小さな夢は、実現していました。
眩しいほどの笑顔。
高校に通える結莉の喜びが
画面全体から伝わってきました。 良かったね。
それこそが、手に掴んだ「有りふれた未来」。
☆映画の感想は人さまざまかとは思いますが、このように感じた映画ファンもいるということで。
たくさんの世代に観てもらいたい
未曾有の震災や突然の事故。
なす術もなく哀しみに向き合わうことになってしまった運命を生きること。
そして、まわりの人々はどう支えることができるのか。
…………
⚫︎私が一番印象的だったゆりと祖母について
前に進みたい、そう思っていても
傷ついた心はそう簡単にはいかない。だから(それがわかる近い人ほど)頑張れなんていえない。
生きているだけ…それだけでいい。
ゆりの祖母(手塚さん)が、ガイドラインに沿って一方的に指導しようとする先生に向けてそんなふうに語る。
自らも家族を失い、さらに、そこから立ち直れない息子と笑顔が消えた孫をしずかに支える震災被害者だ。
そんな境遇で自分の立場を生きていく覚悟を決めた彼女の言葉。
だからこそあれほどまでに訴えてくるものがあるのだろう。
その話を悩めるゆりには聞かせない配慮をし、相手には敬意を保ち、丁寧に誠実に話す。
身近な家族に関して、しかも本来なら感情を抑えるのが難しい状況に取り乱すことなく、わかってもらえるようにしっかりと強く前を見据える。
愛にあふれたたくましい祖母の姿、潤む瞳で訴える手塚さんの圧巻の演技が心にのこる。
ゆりを演じた碧山さんは宮城出身だそうだ。
等身大の役どころは、震災から続くつらい運命に揺れる中学生。
今にも割れてしまいそうな薄いガラスがかたかたと震えるような表情、彷徨う気持ちのやり場のなさが切ない。
思春期に重なる複雑なゆりの心を、純粋で繊細に感じさせてくれた若き役者さんのオーラに感動した。
…………
震災地を舞台に、不意に失いかける自分、行き場のない心の動きをそれぞれの登場人物の人生のストーリーを柱に少しずつ絡ませながら流れていく本作。
青い空に青い鯉のぼりが躍動するラストシーン。
生を感じる太鼓のリズムを浴び、忘れられないことを経験やいまだに癒えない影があったとしても、前をむこうとするひとりひとりの顔。
その尊さから学ぶものを、ここに今、たまたま平和に生きている自分も感じ心に刻まなければとおもう。
【哀しき震災から12年。命の大切さと人間の絆の大切さを伝える群像劇が公開された意義は大きい。現代が抱える諸問題を憂えた若手俳優達が、今作を自主制作した気概を買いたい作品である。】
ー エンドロールで流れるが、東日本大震災の被災者である齊藤幸男さんの「生かされて生きる~震災を語り継ぐ~」が今作のベースとなっているそうである。-
◆感想
1.東日本大震災により、妻と息子と義理の父を喪い、酒浸りの日々を送る男(北村有起哉)と、生き残った娘ユリと祖母(手塚里美)
2.恋人でロックバンドの仲間だった恋人を、事故で失った愛実(桜庭ななみ)。そして彼女のフィアンセで、ユリの担任でもある優しき男。
3.愛実の母(仙道敦子)は、末期がんに侵されつつ、娘の結婚式に出る事を願っている。そして、それを支える元夫(杉本哲太)
4.30歳を過ぎてもボクシングを止めない信念を持つ男。弟は愛実のフィアンセ。
5.30歳近くになっても、演劇を続ける男女とその仲間。
ー 今作は、命の尊さ、大切さを群像劇で描いた作品である。
そして、メインストーリーである、震災によって心に深い傷を負った少女とその父が、周囲の支えにより再起する姿は、現代日本の未来に微かなる希望を感じさせる作品でもある。ー
<東日本大震災から本日で12年である。
だが、今作を観てもその傷が癒えていない人は現在でも多数いらっしゃる。
そして、その後に世界を襲ったコロナ禍により様々な苦しみを経験した人達(私の同僚の女性は、後遺症に未だに悩んでいる。)も多数いらっしゃるのである。
そんな中、今作が製作され、全国公開された事は、大いなる意義があると私は思います。>
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