「たくさんの世代に観てもらいたい」有り、触れた、未来 humさんの映画レビュー(感想・評価)
たくさんの世代に観てもらいたい
未曾有の震災や突然の事故。
なす術もなく哀しみに向き合わうことになってしまった運命を生きること。
そして、まわりの人々はどう支えることができるのか。
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⚫︎私が一番印象的だったゆりと祖母について
前に進みたい、そう思っていても
傷ついた心はそう簡単にはいかない。だから(それがわかる近い人ほど)頑張れなんていえない。
生きているだけ…それだけでいい。
ゆりの祖母(手塚さん)が、ガイドラインに沿って一方的に指導しようとする先生に向けてそんなふうに語る。
自らも家族を失い、さらに、そこから立ち直れない息子と笑顔が消えた孫をしずかに支える震災被害者だ。
そんな境遇で自分の立場を生きていく覚悟を決めた彼女の言葉。
だからこそあれほどまでに訴えてくるものがあるのだろう。
その話を悩めるゆりには聞かせない配慮をし、相手には敬意を保ち、丁寧に誠実に話す。
身近な家族に関して、しかも本来なら感情を抑えるのが難しい状況に取り乱すことなく、わかってもらえるようにしっかりと強く前を見据える。
愛にあふれたたくましい祖母の姿、潤む瞳で訴える手塚さんの圧巻の演技が心にのこる。
ゆりを演じた碧山さんは宮城出身だそうだ。
等身大の役どころは、震災から続くつらい運命に揺れる中学生。
今にも割れてしまいそうな薄いガラスがかたかたと震えるような表情、彷徨う気持ちのやり場のなさが切ない。
思春期に重なる複雑なゆりの心を、純粋で繊細に感じさせてくれた若き役者さんのオーラに感動した。
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震災地を舞台に、不意に失いかける自分、行き場のない心の動きをそれぞれの登場人物の人生のストーリーを柱に少しずつ絡ませながら流れていく本作。
青い空に青い鯉のぼりが躍動するラストシーン。
生を感じる太鼓のリズムを浴び、忘れられないことを経験やいまだに癒えない影があったとしても、前をむこうとするひとりひとりの顔。
その尊さから学ぶものを、ここに今、たまたま平和に生きている自分も感じ心に刻まなければとおもう。