「モンスターに注力」ノー・ウェイ・アウト 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)

2.5モンスターに注力

2021年10月12日
PCから投稿

ホラー映画の主人公は執心やわだかまりを持っている。ことが多い。そして、敵となるモンスターが、彼/彼女のなかにあるその執心そのもの──を投影していることが、よくある。
本作の主人公も母親が亡くなったことと、メキシコからクリーヴランドに移住したこと──強迫観念がかのじょをバインドしている。そのhorribleなふんいきはいい。とりわけ移民の立場が、きょうみ深かった。

あなたは他国へ移民を希望していますか?
幸福なことだが、日本人はおそらく移民の気持ちについて、この惑星でもっとも縁遠い人種だと思う。

くわえてダイバーシティ(人種に対する多様性)が欠如している日本人としては、この主人公が負う移民の境遇が、とてもわかりづらい。

(世界を知らない日本人の感覚としては)陽の当たらない地階で洋裁をして雇い主に搾取される──なんてのはアジア圏の低層階級が負う境遇である*。
映画とはいえモデルのようなCristina Rodloが隷属的労働者をやっているのは違和感があった。

*ちなみにこれはある種の差別意識もある視点だが、ほとんどの(日本人の)視聴者がそうかんじたはず──という自信にもとづいて、あえて書いた。

horribleふんいきはいいけれど見どころはすくない。すくない──というかモンスターの造形にすべての焦点がきている。本作の監督Santiago Menghini(の情報を)を見たらVisual effectsをやってきたひとで長編はデビューになっていた。よってVisual effectsの専門家としての矜持というか──たしかにモンスターのできはすごかった。

わたしが思い浮かべたのは(もののけ姫の)シシ神。強さと気持ち悪さと、わけのわかんなさをかねそなえた、いい感じのモンスターだった。

そのモンスターが主人公アンバーが負っている母親の死の強迫観念と重なるところにホラー映画の素地が据わっていた。及第なできだったが、わかっているひとがつくっていると思った。

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津次郎