「アカデミー賞黒人俳優連続非受賞の壁を突破し、主演女優賞獲得なるか?!」リスペクト バフィーさんの映画レビュー(感想・評価)
アカデミー賞黒人俳優連続非受賞の壁を突破し、主演女優賞獲得なるか?!
映画の全体的な構成としは、激動の人生をおくったアレサ・フランクリンの伝記映画ということもあって、どこをとってもドラマチックすぎることから、エピソードを抜粋していくのが非常に難しかったことが伝わってくる。
そのため10代でレイプによって妊娠し、2度も出産していることが、かなりざっくりと描かれているし、牧師の父親との関係性や公民権運動、女性解放運動、夫からのDV、アルコール中毒、神への信仰心、そして歌手としての方向性の確立など、とにかく描くことが多すぎてしまっていて、ダイジェスト的になってしまっているのは残念でならない。
アメリカにとって、アレサ・フランクリンという人物は、偉大なアーティストであり、誰もがその生い立ちというのを知っているし、ケイシー・レモンズ監督のミュージカル映画『クリスマスの贈り物』でモデルにされたぐらい、神に仕える親と、その親族が感じていた圧力を描くうえで下敷きになるほど有名ではある。
日本においてもアレサのファンは、その背景を知っているから、自分の知識の中で補えるかもしれないが、全くアレサを知らない人が観て、知るきっかけにはなるだろうと思うが、全てを理解するには難しい構造となっている。
これは、やはり伝記映画の難しいところであって、『ドリームガールズ』や『スパークル』『ロケットマン』のように実在のアーティストの伝記を下敷きにしていながらも、フィクション要素を強くすることで回避するという手もあるが、今作はミュージカル・エンターテイメントというよりも、人間ドラマを大切に描こうしているだけに、そこがいちまいち上手くいってないような気がしてならない。
幸いなことに、ヒストリー・チャンネルで放送されたシンシア・エリヴォがアレサを演じた『ジーニアス』が足らない部分を描いてくれていることもあって、それと合わせて観ると、より理解できると思うし、『アメイジング・グレイス/アレサ・フランクリン』も観れば尚良いだろう。
作品的には、ざっくりとし過ぎてしまった感がどうしてもぬぐい切れず、アカデミー賞も作品賞にノミネートされることはあっても、受賞は難しいと思う一方で、それらの難点を補うほどのジェニファーの名演は素晴らしく、主演女優賞ノミネートは固いのではないだろうか。
『アメリカン・アイドル』シーズン3・ファイナル7まで残ったものの、脱落してしまったジェニファーだが、その後アレサの前座としてライブを回っていた過去もあって、アレサと行動を共にし、彼女のソウルを受け継いできているからこその、アレサ本人も認める抜擢であり、実際にジェニファー以上にアレサが似合う女優は存在しないだろうと思わせる。
歌唱シーンの再現はもちろん、父親や夫から暴力を受けたトラウマから、暴力というものを心底嫌っていたはずなのに、公民権運動、女性解放運動を通して、自分の中に嫌っていた「暴力性」があることに気づき、それがアルコールに依存するひとつの理由となっていたことは、セリフでは語られないのだが、ジェニファーが見事に体現していて、観ている側にそれを感じさせるのは、さすがとしか言い様がない。
アカデミー賞は第79回の『ラストキング・オブ・スコットランド』(2006)のフォレスト・ウィテカー以降、黒人俳優が受賞を果たしておらず、ほぼ確定とされていた『マ・レイニーのブラックボトム』のチャドウィック・ボーズマンが受賞を逃したこで、その見えない壁というのは、とてつもなく大きい。
しかし、全体的にざっくりした内容の中で、映画自体の情報量を倍にしているジェニファーの演技は評価されなければならない。「リスペクト」は、「女性も認めなさい!」「リスペクトしなさい !」というメッセージ性をもった曲ではあるが、一方で女性である以前に黒人も同じ人間だ!というメッセージ性、もちろん神への信仰という部分も反映されていると思う。
今作でジェニファーが主演女優賞を受賞することことで、世界に向けてメッセージを伝えられるようにも感じられるのだ。