劇場公開日 2021年11月5日

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「題名のリスペクトの本当の意味」リスペクト あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0題名のリスペクトの本当の意味

2021年11月18日
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鑑賞方法:映画館

何度も泣きました、泣きはらしました
最高の映画です
星100個つけたいくらいです
ソウルミュージック好きだからだけではありません
映画としても感動しました

日本では彼女の事を昔からアレサ・フランクリンと表記しています
だから字幕もアレサとなっています
でも実際の発音は劇中のとおりアリーサです
少女時代に彼女がリーと呼ばれているのはそこから来ています

彼女が10歳の1952年から始まり、30歳1972年のあのアメージング・グレイスの教会での録音までの20年間の物語です

あの有名なマッスル・ショールズのフェイム・スタジオのシーンは、ソウルファンなら正に神話の世界、創世記みたいなもの
フェイムスタジオは聖地そのものです
リック・ホールやそのスタジオミュージシャン達は神々なのです
あの曲がこの様に出来ていったのかと感動、感涙するものです
単に知識として知っていたことだったものが、まさに自分がその歴史的瞬間に立ち会い目撃していたかのように感じられるのです

クライマックスは、あのロスの教会でのアメイジング・グレイスの録音シーンです

エンドロールは73歳のアレサ本人の歌唱シーンです
2015年のキャロル・キングの「ケネディ・センター名誉賞」授賞式での実際の映像です
アレサの登場で飛び上がって感激するキャロル・キング本人、臨席されたオバマ大統領夫妻も写っています
オバマ大統領は涙を拭っています
この映像素材はソウルファンなら既に何度も観たものでしょう
しかし、本作を締めくくるに最も相応しいと誰もが認めるものだと思います

本作のジェニファー・ハドソンが、どれだけ本人に似ているか良くわかると思います
それ以外の登場人物も誰も彼もみんな本人にそっくりです
ジェニファー・ハドソンの歌唱も、アレサ本人にも匹敵する程の見事なものでした

白黒のテレビカメラの向こうで取材を受けるアレサやテッドの姿は、当時のニュース映像とシームレスに繋げられており、全く違和感がないのです
私達観客は本作の中でアレサの時代をともに体験している感覚を得られるのです

音響も素晴らしく、当時のアナログ的な温かい音でバイナルレコード的な音場表現でステージが再現されています

ソウルファンなら、本作のエピソードはあらかたご存知のことばかりだと思います
彼女の伝記本を読まれた方も多いと思います

歌詞の内容も、本作で取り上げられたような有名曲ならどの曲も把握されているとおもいます

自分もそう生意気にも自負していました
しかし、こうして映画として構成された本作を観たたとき、それは単なる知識として知っていたことに過ぎないと思い知らされました

歌詞の意味だって、生半可にしか分かっていなかったのです
歌われている本当の意味を、頭でしかわかってなかったのです
上っ面だけの理解だったのです
魂で分かっていなかったのです

彼女は、実際に生きて、肉体をもって、心を持ち、この世界に確かに存在していたのです
彼女の人間らしい苦悩を感じることができました
彼女は女であり、肉欲もあり、成功欲もある普通の女性だったのです

その普通の女性の苦悩がなぜ万人の魂を震わせるのか?
それは万人が同様に感じている苦悩を、神が彼女に与えたもうた類い希な喉の力で、彼女の苦悩を万人に伝え共感させることができるからです

ソウルミュージックがなぜソウルと呼ばれるのか?
それは本作を観たならば、本当に心から納得も得心もできると思います

誰もが持つ苦悩
それはなぜ自分がこんな不幸な目にあわなければならないのかです

題名のリスペクトとは何でしょう?
彼女の大ヒットの曲名?
ソウルの女王アレサへのこと?
神や信仰へのこと?
もちろんそれもあるでしょう
しかし本当の意味は別だと思います

抑圧されてきた彼女

黒人であること
女性であること
子供であること
三重にも抑圧され逃げ道はない

母が離婚して別居しているその理由を彼女は自ら記憶を消してしまっていました
そうしなければ彼女は耐えられなかったのです

10歳の時に受けたレイプも彼女の心の奥底に無理矢理に隠していました
望まない妊娠と出産、それも何度も
父親がそれを見て見ぬふりをしていたのです
教会の隆盛の為に彼女の性を利用したのです
子供の無知、弱い立場を利用したのです
なのに、彼女はそれは自分の中にある「悪い虫」のせいであると思い込まされていたのです

白人からの抑圧
父からの抑圧
夫からの抑圧
レコード会社からの抑圧

それもこれも全部自分に悪い虫がいるからだ
そのように思い込んでいる、いやそう思わせるように抑圧されてきた女性だったのです

そうじゃない!
悪い虫なんて在りはしない
抑圧されてきた人間の魂の悲鳴なのです

人間は他者から抑圧されてはならない
誰からも自由であること
それはこの自分をただ尊重してくれと言ってだけではないのです
女性を尊重して欲しいということだけではないのです

人間を尊重して欲しいということです

それは
他の人間を尊重する
他の性を尊重する
他の人種や違う肌の色を尊重する
子供や弱い立場の人を尊重する

なにより自分が自分自身を尊重する

自分にプライドを持ち、正しいことをなすこと
正しいと思える道を独りでも進んでいける心の強さを持つこと

それがリスペクトの意味なのです
リスペクトの歌詞の本当の意味がタイトルだったのです

本作が今年公開された理由
それはもちろん、アレサが2018年に亡くなったからです
それがきっかけです
しかし、昨今のBLM 運動の高まりこそが本作を作らしめたのだと思います
それが本当の理由だと思うのです

つまり本作は確かにアレサの伝記映画ですが、それだけにとどまらず、21世紀に必要とされていること、アレサの世代その前の世代の人々が勝ち取ったことの精神を再確認する為の映画なのです
私達の世代がそれを台無しにしてはならないのです

リスペクト
他の人種や違う肌の色を尊重する
それは白人が黒人を尊重だけでなく
黒人が白人を尊重する事でもあります
そうすることが、黒人自身が自らを尊重する事でもあるのです

私達日本人も同じです
米国の話、黒人の話、ではないのです
私達人間全てのことなのです
世界中の人間全てのことなのです

リスペクト
憎しみをぶつけあうことなく、互いを人間として尊重しよう
それが本作のテーマなのです
21世紀にも通じる、全人類への永遠のメッセージです
むしろ21世紀にこそ必要なメッセージなのです

蛇足
アメイジング・グレイスを合わせてご覧下さい
本作のクライマックスの実際の映像です
日本版のDVDがちょうど発売されました
やはり本作を観たなら、歌詞の和訳の字幕が欲しくなります
米国版をもっていますが、やっぱり日本版が欲しくなりました

あのチャーチコンサートでの彼女の異様な雰囲気
それは自分を利用しつくし、さらに利用ようと今また自分の前に現れた抑圧者に憎しみをぶつけるのでなく、彼も弱い人間だったのだと尊重して、過去の全ての憎しみを止揚しようと苦しみもがいていた、正にその現場だったからなのでした
これこそ彼女の半生のクライマックス、それまでの半生への句読点であったのです
本作のクライマックスに相応しいものです
本作に感銘を受けたひとは本作の続きとして是非ご覧下さい

この映像がある理由でお蔵入りになっていたのは、実は彼女が現場を撮影していた監督に頼んで封印してもらったのではないのか?
監督につまらない言い訳の嘘をついてもらって
そのように思われてなりません

プロの監督や撮影スタッフがカンチコを忘れるようなイロハのイを忘れる訳がありません
関係者はみんなそのことを分かってそういうことにしているのではないでしょうか?
自分にはそう思えるのです

それは彼女にとっては録音は許容できても映像までは受け入れることは、とても苦しい辛いことだったのだと思うのです

そのような気がしました

あき240
うどん人さんのコメント
2021年11月24日

非常に詳しい感想で感銘しました。でも少し長すぎる気がします。すみません。

うどん人
大吉さんのコメント
2021年11月19日

もう一度観に行きます。
ドキュメンタリーも見ます。
素晴らしいレビュー
ありがとうございました。

大吉