「目的地の前にある障壁は、理想と現実という名の絶壁だった」笑いのカイブツ Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
目的地の前にある障壁は、理想と現実という名の絶壁だった
2024.1.9 イオンシネマ京都桂川
2023年の日本映画(116分、G)
原作はツチヤタカユキの自伝小説『笑いのカイブツ(文春文庫)』
伝説のハガキ職人の、笑いに取り憑かれた男の悲哀を描いたヒューマンドラマ
監督は瀧本憲吾
脚本は瀧本憲吾&足立紳&山口智之&成宏基
物語の舞台は、大阪の下町(ロケ地は大阪市都島区)
テレビ番組「デジタル大喜利」のレジェンドを目指してネタを投稿している構成作家志望のツチヤタカユキ(岡山天音)は、膨大な量の投稿を繰り返し、ようやくレジェンドの座を手に入れることになった
ツチヤはおかん(片岡礼子)と一緒に住んでいたが、おかんは男を取っ替え引っ替えしていて、生活が向上する気配はなかった
レジェンドとなったツチヤは、地元の劇場に向かい、その実績を「アッピール」するために劇場に向かった
そこではステージのリハが行われていて、支配人(お〜い久馬)はツチヤを面白いと感じ、作家の見習いとして抱えることになった
世話役には山本(前田旺志郎)が押し付けられたが、二人のソリが合うことはない
その後、ピン芸人のトカゲ(淡梨)の作家をすることになり、ネタもそこそこに受けるようになっていたが、ツチヤは自分の名前が一切出ないゴースト状態に嫌気を差して辞めてしまった
そして、フリーになったツチヤは、今度はラジオ番組のハガキ職人として、ベーコンズという人気漫才コンビの番組にネタを送りまくる
ベーコンズのツッコミでMCをしている西寺(仲野太賀)はツチヤの投稿を気に入り、ラジオを通じて「一緒にネタを考えよう」と呼びかける
物語は、一大決心をして上京するツチヤを描き、そこでラジオ番組の構成作家見習いとして働く様子が描かれていく
番組のディレクターの佐藤(管勇毅)はツチヤを良く思っておらず、仲裁に氏家(前原滉)という芸人兼構成作家が入ることが多くなる
西寺はツチヤを評価していたが、正規ルートではない扱いが毛嫌いされていた
また、ツチヤが社交的でなく、常識的な付き合いができないことも溝をさらに深めていく
そんな折、ホストのピンク(菅田将暉)に構ってもらえるようになったツチヤだったが、東京でもゴースト状態になっていて、また現場が「本気で笑わそうと思っていない」と感じるようになって、さらに体も壊してしまうのである
映画は、笑いに取り憑かれたツチヤの日常を描き、笑いを作るためにどのような人が関わっているのかを描いていく
お笑いの裏方が登場し、構成作家のネタを芸人が披露している部分も赤裸々に描いていく
そして、本作の命題は「クレジットされる意味」となっていて、ネタに命をかけたチチヤはそれを褒賞として求めてきた
だが、ゴーストは所詮ゴーストで、いつかその時が来ると言われても、ツチヤは納得できなかったのである
物語は、構成作家になる難しさを描いていて、お笑いに対するある姿勢というものを描いていく
スタンスが違うと言えばそれまでだが、これまでの経験値で抜くところは抜いている状況と、単に若手のモチベーションを利用しているだけの人もいる
ツチヤが出会ったのは後者の方になるのだが、それでも視野が狭くて、お笑いのリアルがわかるのかは何とも言えない
氏家のように立ち回りが上手い方が成功するのはお笑いに限ったものではないが、その世界に関わり続けることと、その世界で名を馳せたいかで目的地が違うのは仕方がないことなのかもしれません
いずれにせよ、そこまでお笑いに自信があるのなら、自分でネタを見せるパフォーマーになれば良かったのにと思うものの、それができない性格だったのかなと思う
受け手とすれば、面白かったネタに放送作家が入っているかどうかは、その瞬間には気にしないものなので、クレジットで構成作家の名前があってもわからないと思う
だが、作り手としてのこだわりがそこにあって、彼は名前を呼ばれて認知されることを承認欲求にしているので、この着地点になるのは仕方がないのかなと思った
西寺が彼のネタを演じて、彼の名前をクレジットに載せたのは良心だと思うが、実際の世界だったら氏家の名前になっていたんだろうなあと感じた