「腹立だしくも切なくて愛おしい。観る側の評価を分かれる事をあえて組み込んだ事で完成する(ような)作品かと。」笑いのカイブツ 松王○さんの映画レビュー(感想・評価)
腹立だしくも切なくて愛おしい。観る側の評価を分かれる事をあえて組み込んだ事で完成する(ような)作品かと。
以前から気になっていた作品を鑑賞しました。
昨年末に鑑賞した作品のレビューがまだ書ききれてないけど、この作品のパンチが強すぎて、フライングで感想を書いてみましたw
で、感想はと言うと…面白い!
よくぞここまで振り切った!と言う感が強くて、こんな実在の人物が居るのかと言う驚きと多少の脚色があるにしてもフィクションに振り切ってないのなら尚更驚き。
好みが分かれると思うし、万人が楽しめる作品ではないけど、見応えがあり、映画好きの人にはハマるのでないかと。
社交術を身に付いてしまった大人の物差しで図る人には理解出来ない部分が多々あるけど、それを取っ払ってしまうと物凄く純粋で自身の価値観とルールで突っ走るツチヤを共感かつ羨ましく思えてしまう。
でも、汚れてしまった大人の自分にはツチヤの行動は不器用を通り越してワガママにも映るw
「有名になりたいです」と西寺の問いに答えながらもそれに納得出来ないツチヤの行動には“面白いと言うのが絶対の正義だから、それに従わない奴らがおかしい”的な部分も含んでいるようにもと思う。でも“単に有名になりたいのなら無冠の帝王の如く、アマチュアで凄い奴を目指せばいいやん。仕事として業界で有名になりたいと考えるなら周囲との連携があってこその仕事やん”と考えたりもする。
良い意味でツッコミどころの余白があり、その余白に各々の考える価値観が含まれて完成。
映画鑑賞後に観た人と“あ~だこ~だ”と喧々諤々に語れることがこの作品の意図と醍醐味でもあるんでは?と考えるとちょっと凄い作品。
また、そんなツチヤを演じる岡山天音さんがぴったり過ぎ。他にツチヤを演じられる人が見つからないくらいにハマリ役。この時点で作品の成功をハードルを1つ越えてます。
また、ピンク役の菅田将暉さんや西寺役の仲野太賀さんが良い感じなんですよね。
アウトロー的な生き方のツチヤに共感を感じつつも笑いにひたむきなツチヤに憧れを抱き、寄り添えるピンクは何処か観る側の代弁者でもあり、そんなツチヤとの奇妙な友情が良い。そんな菅田将暉さんの好演がキラリと光る。
また、ツチヤの才能を信じつつ、チャンスを与えながらも社会性の薄いツチヤを軌道修正しフォローをする西寺演じる仲野太賀さんがホント良いんですよね。不器用ながらもお笑いに愚鈍なまでのツチヤを可愛がり、そんな西寺にツチヤも心を開らこうとしていく。
こんな人に巡り合えたツチヤは幸せ者ですが、そんな西寺の恩義を感じるからこそ、それに報えないツチヤの葛藤が切ないんですよね。
居酒屋で酔っ払って思いの丈を吐いたツチヤに対して「地獄やな。その地獄で生きていけや」と言うピンクのセリフと駐車場で「お前、このままでは終わらないからな!」と叫ぶ西寺のセリフ。この2つは屈指の名シーン。
あとラストの片岡礼子さん演じるオカンの「1回、死んだんやったら無敵やん」は良いセリフ。
ラストでこの後の無敵になったツチヤに期待を寄せてしまい、そこはかとない光明を感じさせるのが良いんですよね。オカン…やるやんw
全体的にはツチヤの社交術の無さと周囲との軋轢に不一致にズシッとやり切れ無さがのし掛かるんですが結構ツッコミどころもあり、いろんなアルバイトを速攻でクビになってはいるけど、いろんなバイトの面接から採用にまでは行けているツチヤって、入り口の部分ではとりあえず社交性あるんやなとw
また、グダグダに酔っ払った際に地回りのお兄さんから「これで漫喫でも行けや」とお金を差し出されたら「…有難うございます…」と言うセリフで引き下がるのにはちょっと笑ってしまったw
あと、構成作家見習いで入った劇場での盗作疑惑や仲が良くなりかけたトカゲとのその後はフェードアウトなのはちょっと消化不良かな。
大阪に帰ったツチヤの実家に訪ねてくるトカゲのラストで締めって言うのは…ベタですよねw
深夜放送が全盛期にはハガキで投稿する事がちょっとしたブームになっていた時期がありましたが、ラジオは今や縮小傾向気味。2028年にはAM放送が終了してFM放送と統合される事を考えるとラジオ好きには切ない限り。
でも、ラジオと言うメディアは絶対無くならないと思うし、それを支えるリスナーが居るからこそ、次代の構成作家が育つとも考えます。
夢に不器用過ぎるくらい不器用で真っ直ぐで笑いの為なら周囲との摩擦も気にしないツチヤはある意味凄いけど、ここまでやるか…とも思えてしまう。
でも、そんなツチヤタカユキに腹立だしくもあり、切なく、愛おしくもあるんですよね。
「正直者が馬鹿を見る」のお笑いの正直者が馬鹿をとことん追求しまくって、馬鹿の先にあるピリオドの向こうをたどり着こうとする物語。
昨年末の「M-1グランプリ」で漫才指導をした「令和ロマン」が優勝したりしているのを考えるとなんか「持っている」感があるし、これ、2024年の日本アカデミー賞になんらかで絡むのでは?と思うし、絡んで欲しい。
そう思わせるだけのパワーがある作品です。お薦め!