「主演女優の眼力に凄み漂う」ファイター、北からの挑戦者 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
主演女優の眼力に凄み漂う
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主演のイム・ソンミにはとてつもない眼力がある。何もセリフを発さずともその眼で何かをじっと見つめる表情だけで、テコでも動かないほどの頑なな意思や感情が伝わってくる。その激しくも「静」なる存在が、やがてボクシングという極限の「動」へと導かれていくわけだから、この著しい状況変化によって彼女の魂と肉体が大きく孵化していくのは当然の流れと言えよう。フラッシュバックを用いない構成ゆえ、彼女の過去に関しては想像に身を任せるしか術がない。過去を省みることも、未来を盛大に夢見ることもせず、今はただ全てをこの「現在」の一点に集約させ突き進んでいく語り口が魅せる。と同時に、本作は母子の物語でもある。こういった作品では親子二代の反復とずれが交互に押し寄せるのが常だが、だとすればストイックな日々の中で花開くラブストーリーによって主人公の表情がぎこちなくほどけていく過程は、母がかつて辿った道でもあったのかもしれない。
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