スズさん 昭和の家事と家族の物語のレビュー・感想・評価
全2件を表示
無私の精神性が昭和の主婦に宿っていた
淡々として静かな映画だが、どこか心を揺さぶられるものがあって、知らずしらず涙が溢れてくる。スズさんという名前から、アニメ映画「この世界の片隅に」の主人公北條すずさんが思い起こされた。戦争に翻弄されながらも、家族や地域の人たちと過ごす日常をとても大事にするという共通点に泣かされたのかもしれない。
しかし本作品は反戦映画ではない。戦時中から戦後にかけて日本に存在した、一日中働いている主婦の日常を細かに描いた作品だ。5時から6時くらいに起きて身支度をし、朝食を作り、後片付けと洗い物をし、大量の洗濯物を洗い、絞って干す。家中の掃除が終わると、着物の縫直しや繕い物をする。漬物を漬け、季節によってはおはぎやおせち料理を作る。買物に出かけ、帰るとすぐに夕飯の準備だ。夕食、片付け、洗い物が終わると、夜は編み物をしたり、夫の翌日の準備をする。あっという間に真夜中になる。
子どもたちが学校から帰って勉強していると、勉強なんかしないで手伝いなさいと言われる。綿入れに綿を詰めたりする仕事が沢山あるのだ。手が空いたらやろうと思っている懸案が山積みという訳である。家事に追われる主婦には、暇な時間などないのだ。
それでもスズさんは幸せだったように見える。家族の世話をするスズさんにとっては、家族の幸せが自分の仕事の反映であり、そこに幸せを感じていたのだろう。最期まで働きづめの人生だったが、とても充実していた。あれこれとやることが沢山あり、仕事をこなす技術がある。料理と裁縫が得意なスズさんは、家族に美味しいものを食べさせ、見栄えのいい着物を着せる。家族の笑顔がスズさんにとってのご褒美だ。
「かあさんの歌」に出てくる「かあさん」は昭和に実在したのだ。高度成長期は長時間働く企業戦士が活躍したが、彼らを支えたのは昭和の主婦である。誰からも褒められることなく、ただ家族のために一日中、一年中働き続けた。無死の精神性が昭和の主婦に宿っていたことを、本作品によって改めて知らされた。
全2件を表示