「神山監督の若者いじりは両刃の剣」永遠の831 odeonzaさんの映画レビュー(感想・評価)
神山監督の若者いじりは両刃の剣
ジュブナイル向けの青春アニメにはそぐわない政治色の強い物語、制作会社クラフターのCEOでもあり脚本・監督の神山健治さんは若者たちには単なるエンタティンメントでは無く考えてもらえる、頭も使う映画づくりを信条としているとのことだから作家性と理解するものの、問題の投げかけ方がいささか乱暴過ぎる気もする。未曾有の大災厄とは3.11やコロナのことか、定かではないが世相に漂う閉塞感に便乗して一本作る気になったのでしょうかね。
神山さんはSNSに悲観的との声をよく耳にするが本作でもそれは感じますね。
主人公が生徒会費流用事件を告発したことが思わぬ波紋を起こして冤罪を着せられる。浴びせられる「個人的な正義感は迷惑だ、所詮自己満足の為だろう」というセリフはいかにもSNSで飛び交いそうで共感してしまう若者がいないか不安になる、神山監督の若者いじりは両刃の剣。
清白(スズシロー)と橋本なずなは時間停止能力を持っている超人だが謂われは語られない、むしろ自身でも持て余しており、いわば同病相哀れむ的に惹かれあうという関係性は単純。
その特殊能力を自らの悪企みに使うのがなずなの異母兄、橋本芹。
政府に批判的な犯行メッセージをだすものの劇場型犯罪を株価操作に利用して金儲けをしている悪党だが、ある種人たらしとしては凄腕、スズシローの過去のトラウマ事件に共感性を示したり、親の復讐めいた動機をちらつかせてスズシローをも利用する。
神山監督の庶民観は一見、単純素朴、新聞配達のスズシローに優しいお得意さんのお婆ちゃんがいる反面、新聞代を踏み倒す小悪党もいて両極端。ただ、芹のキャラクターの理解は難解、どんな口実、綺麗ごとを並べてもオレオレ詐欺の事務所のシーンをみれば一目瞭然なのですが、芹の弁が立つだけに若者世代がうわべだけの政治批判を真に受けないかとちょっと気がかり。
誰かのせいにするのは簡単ですがもっとよく考えてというのが神山監督のメッセージでしょう。